キーアイテム
無駄に疲れた騎士将軍との戦いを経て、俺たちは王都へ戻って来た。
王都を旅立ってからそこまで日数は経っていないはずなのに、妙に久しぶりに感じる。
多分、色々なことが短期間であったせいだろう。
物凄く精神的に疲れた。
古城(?)から王都までの道のりは装甲車に乗ってきたため、移動に関しては楽ができた。
エリアスが装甲車を王都の入口まで走らせると、門番が声を掛けてくる。
「おお、勇者様!お待ちしておりました!」
王都の門番たちは装甲車に乗って現れた俺たちに対して、普通に話し掛けてくる。
「神器の欠片は集まりましたか?」
「なんとか……」
「おお、さすがです!それでは王都の大神殿までお越しください。司教様がお待ちです」
元気よく大神殿までの道程を説明する王都の門番。
――何故、装甲車について何も言ってこないんだ?
中世ヨーロッパ風の街並みと人通りが続く道を馬車に混じって装甲車で進むのはなんとも違和感があるが、兵士だけでなく住民たちも何も言ってこなかった。
こうも平然とスルーされると、もしかしておかしいのは自分なんじゃないかと思えてくる。
しばらくして見えてきた大神殿は王都の中でもかなり大きな建物だった。白の大理石で作られていて荘厳な雰囲気を醸し出しているが、装飾は落ち着いた造りで嫌味な感じもない。
エリアスが装甲車を走らせ、建物の裏手に装甲車を止める。
俺たちが車を降りると大神殿から老婆が現れた。その姿に見覚えがあるなと思い返すと、この世界で目を覚ました時に国王と一緒にいた刺繍を施された豪奢な衣装を纏った老婆だ。
「よくぞお戻りになった。その様子だと無事に神器の欠片を集められたようじゃな」
満足そうな老婆にエリアスが頭を下げる。
「お久しぶりです、『ロルハ司教』」
この人司教だったのか。名前も初めて聞いた。
「うむ、エリアスも大儀であった。話はイベン司祭から聞いておる」
どうやらエリアスと知り合いらしい。まあ、同じ宗教に所属するシスターと司教だから面識があってもおかしくはないか。
「神器を復元する準備は既に整っておりますぞ。さあ、中へ」
老婆――ロルハ司教に案内されて大神殿の中へと入る。
聖堂の横にある木でできた扉を抜け、神殿の奥へと進む。
石畳の廊下を歩くと、奥まった場所にある部屋へと辿り着く。
「こちらが儀式の間になります」
部屋の中に入ると大きな神様の石像が目に付く。立派な髭を蓄えた体格の良い老人の像であり見覚えがあった。恐らくウエストタウン近くの廃教会で見た石像と同じものだ。
廃教会の像はボロボロで元の状態が分からなかったが、これが本来の姿なのだろう。荘厳な雰囲気の立派な石像だった。
像の前には台座が置いてあり、その上に水盆の様なものが置かれている。
「勇者様。神器の欠片を持って水盆の上に置いてください。さすれば、神器復活の儀式が始まります」
ロルハ司教が俺を促す。
「分かりました」
俺は頷いて三つの欠片を水盆に置く。
すると神様の石像と俺の右手にある紋章が黄金に光り出した。
その光はこの世界に来た時に見た光と同じものだ。
「きれい…」
理亜が呟く。
儀式の部屋が黄金の光で満たされ、幻想的な光景が広がる。
一分にも満たない時間だったが徐々に光が収まっていき、光の中心にあった水盆が淡く輝いていた。
「これが…」
「そう、これこそが魔王城の結界を解く、伝説の神器――」
ロルハ司教が水盆から完成した神器を両手で掬い上げる。
「『名前が設定されていません』じゃ!!」
「酷い名前だっ…!!」
なんで重要なキーアイテムがバグってんだよ!
そこはちゃんとしてないとダメだろうが!
「さあ、勇者様。こちらをお持ちになり、魔王城に向かってください」
ロルハ司教が手のひらを差し出してくるが、何も乗っていない。
「いや、持てって言われても、何もな――感触がある!?」
何もない様に見えたが、何故が手には固いものを持っている感触があった。
しかし、それは透明であり重さもない為、持ち辛いったらありゃしない。
唯一感触だけはあり、なんとか掴むことはできた。
えぇー……、何これ?
俺が無を持って困り果てていると、理亜が横から覗き込んできて『名前が設定されていません』を興味深そうに指で突いてくる。
「これ、落としたりでもしたら一生見つからなさそうだね」
「不吉なこと言わないでくれよ……」
無くしたら絶対に見つからないだろうな。
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