華麗からは程遠い
エリアスが騎士将軍が飛んでいった方向に車を走らせ、俺たちは窓から顔を出して周囲を探す。
「あいつ何処いった!?」
しかし、全く見当たらなかった。
周囲が森だったのというのもあり視界が悪い。
騎士将軍が落ちた場所に見当をつけてしばらく探したが見つからず、もしかして通り過ぎたり見逃してしまっているのかと不安になる。
「この辺りに落ちたと思うのですが……」
「影も形もないな」
エリアスとグリドも周囲を念入りに探すが、見当たらない。
しばらくの間あっちこっちとウロウロし、一時間後ぐらいにようやく騎士将軍を見つけ出した。
騎士将軍は予想していた場所からはやや離れた小高い丘で地面に大剣を刺して仁王立ちしている。
「来たか。待ちくたびれたぞ」
「飛んで行ったのはお前の方だろ!?」
騎士将軍は堂々と構えていたが、その言葉にはツッコミを入れたい。
再び武器を構えるが、今度の戦場は屋外で壁や天井がないため、迂闊に攻撃できなくなった。
「くそ!やりにくい!」
また何処かに飛んでいったら元も子もない。
俺たちは遠くに飛んでいないように注意しながら攻撃をしているため、上手くダメージを与えられずにいた。思いっきり剣で斬るなどしたら、またどこかに飛んでいってしまいそうだ。
理亜がヘクターに魔法を唱える。
「『ウィンドカッター』!」
風の竜巻が発生し、切り刻む。
ただ、飛んでいかないように注意しているのか、かなり威力を抑えられていた。
「そのような魔法で私はははははははははは――」
だが、加減をした魔法でも騎士に当たれば吹っ飛んでしまっていた。
巻き上げられた木の葉のように飛んでいくヘクターを見て、魔法を当てた理亜が慌てていた。
「わあああああああああ!まってまって!」
くっ、魔法も駄目か……!
追いついた俺たちに、今度はヘクターが攻撃してくる。
しかし、ヘクターの方もゴムみたいな体のせいで、俺たちに上手く攻撃が当てられないでいた。
びよんびよんと伸びた腕でヘクターが剣を振り下ろしてくるが、俺たちがいる場所とは見当違いの地面に突き刺さる。
「今のを避けるか。やるではないか」
「……いや、一歩も動いていないが?」
何を言っているんだこいつ?そっちが勝手に外していただけだろうが。
力を加減しながら戦うが、少しでも武器や魔法が当たると大きく吹き飛ぶ。
遠くには飛んではいかないが、それでも距離ができるため、毎回走って追いかけなければならない。
そして追いついて再び戦闘開始という作業を何十回と繰り返していた。
互いに有効打を与えられないまま時間だけが過ぎていき、日が落ちていく。
こちらも大した傷は負ってないが、息が上がり体力が限界になってきた。
「はぁ…、はぁ…」
夕暮れの中、俺たちは汗だくで息切れしながらヘクターと戦っていた。
汗が頬を伝って地面に落ちる。
「はあっ!」
集中力が散漫になっていたところに、伸びきったゴムを放したときの様な勢いでヘクターが剣を突き出してくる。
「ぐっ!?」
慌てて剣で防ごうとするが――、
「甘い」
「!」
あまりの勢いだったために俺の持っていた剣が弾き飛ばされ、離れたところに落としてしまう。
だが、その拍子に伸びたヘクターの腕を掴んだ。
「甘いのはお前だ!」
そして、思いっきりこちら側に引っ張る。
「むう!?」
ヘクターが俺に向かって砲弾の様な速さで飛んで来る。
俺は勢い良く飛んできた騎士将軍に対して拳を振りかぶる。
腕を掴んでいたおかげで、明後日の方向に跳ね返ることなくヘクターは一直線に向かってきた。
「くたばれえええええ!」
ラフネのときの様に勇者の紋章が黄金に光り出し、ヘクターの顔面に俺の全力を込めた拳が直撃した。
渾身の右ストレートを受けた騎士将軍は、今までのダメージが蓄積され限界に達していたのか体が砕け散った。
「見事――、良き戦いだった――」
満足そうに呟き、バラバラになった破片が黒い霧になっていく。
夕日で辺り一帯が赤く染まった中、ようやく戦いが終わった。
「何が良き戦いだよ……」
どのへんに感動する要素があった?
「ぐだぐだの泥仕合だっただろうがああああああああああ!!」
俺は夕暮れに向かって叫ぶ。
隣では理亜が地面にへたり込んでいた。
「つ、疲れた……」
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