騎士
難易度の高くない第一の部屋は駆け抜け、再挑戦した『ねこねこパラダイス』とかふざけた名前のアトラクションは、理亜の風の魔法で突風を起こして化け猫共を押し退けて無理矢理進んだ。
本来は落ちて来る猫を避けながら進むコースなのだろうが、俺たちは魔法が使えるので楽して突破できた。
魔法なんて使えない想定で設計されているだろうし、俺たちがやっていることは完全にズルなのだが、何回も挑戦したくないので使うのを躊躇わなかった。
……本音を言えば炎の魔法で焼き尽くして二度と出て来れないようにしたかったのだが、グリドとエリアスに止められた。
グリドと同じくエリアスにも化け猫共が普通の猫に見えるらしい。やはりこの世界に元々いた人物たちとは、俺と理亜が見えているものが違うみたいだ。
その後も暗い場所を進む迷路やクイズで一定以上正解しなければならない部屋など、バラエティー番組を思わせる内容のコースが続いた。迷路は第二の部屋と同じく魔法で灯を出して進めることができて楽だったのだが、クイズは苦戦を強いられた。
何せ出てくる問題が元の世界の内容で歴史や化学、芸能やスポーツなどのクイズだったのだ。
いきなり『現在、月曜九時から放映中の推理ドラマの主人公を演じている女優の名前は?』とか出題されたきは、何を問われているのか飲み込むのに時間が掛った。
この世界の住人であるグリドやエリアスは当たり前だがサッパリ解けなかったので、俺と理亜だけで解く羽目になった。
まあ、この世界の内容に関しての問題が出てきたら、逆に俺と理亜の方がほとんど解けなかっただろう。
ちなみにクイズに失敗すると立っていた場所の床が抜けて、再びウォータースライダーの様な穴に落とされ入口まで戻される。
本当にテレビのバラエティー番組みたいなことをしているな……。
追加でクイズの回答に間違えて二回ほどスタート地点に押し戻されたが、なんとかクイズのステージも正解し、三つ目のダンジョンをクリアした。
『皆様!果敢に挑み続けた英雄たちに惜しみない拍手を!!』
実況が呼びかけると、どこからともなく万雷の拍手が聞こえてくる。
ちなみに周りを見渡しても拍手をしている人物たちなどは見えない。
「こんなとこ二度と来るか!!」
この世界に来てからは毎回予想外の方向性で無駄に疲労が溜まるな……。
ダンジョンという名のアスレチックを通り抜け、建物の最上階へと上ると、古びた玉座の間の様な場所に出た。割れた窓やひびが入った床や壁など、この広間だけはしっかりと古城の雰囲気を出していた。
今までがファンシー路線だったため、逆にこっちの雰囲気の方が浮いている気がする……。
広間の中心に、大剣を背負った一人の騎士が俺たちに背を向けて立っていた。
「奴がこのダンジョンの主か……」
グリドが斧を構える。
俺たちに気が付いたのか、重厚な鎧を着た騎士がゆっくりと俺たちに振り向く。
「……やはりここまで辿り着いたか。さすがは勇者たちよ」
割れた窓から入ってきた風が上質そうな外套をはためかせる。鈍い銀色の鎧を全身に纏い、頭部を覆う兜を被っていて顔は分からなかったが、声色から男性だと思われる。
「だが、魔王様のため、貴公らを止めなければならない」
――歴戦の騎士といった強そうな見た目をしている。
騎士の纏う気配から理愛たちの表情も張り詰める。
しかし、俺はその将軍を前に別の理由で青い顔をしていた。
「魔王軍幹部が一、騎士将軍『ヘクター』」
騎士が名乗り、重そうな大剣を両手で構える。
「――参る!」
騎士ヘクターがこちらに突撃し、剣を振り下ろしてくる。
重そうな全身鎧を着ている割に動きは俊敏だが、見切れない程ではない。
前に出たグリドが振り下ろされた大剣を躱す。
「貰った!」
すれ違いざまにグリドが騎士に斧を横凪に叩き付けた。
その瞬間、騎士がとんでもない速度で吹っ飛んだ。
「…は?」
理亜が唖然とする。
斧の一撃を受けた騎士は有り得ない速度で後方に飛んでいき、そして壁に激突したかと思うと、勢いを落とすことなく別方向に更に跳ねる。
リアルでは有り得ない、重そうな鎧を着た人物の吹っ飛び方ではなかった。
幾ら腕の立つグリドの斬撃が鋭いといっても、明らかに勢いがつき過ぎている。
騎士はそのまま壁や床にぶつかり、縦横無尽に部屋中を跳ね回っていた。
その姿はまるでスーパーボールのようだった。
「何この人!?どんな体してるの!?」
理亜が驚愕していた。
……この騎士タイプのボスは一見まともに見えるが、物理演算が無茶苦茶に設定してある。
物理演算とはゲーム上で現実の様に重力によって落ちたり、物体が衝突した時に跳ね返ったりといった現実の挙動を再現するシステムのことだ。
その物理法則の数値なのだが、異常に軽く、跳ね返り易く設定するとこの騎士の様にとんでもない動きをする。
騎士将軍の身体は例えるなら跳ね返えり易いゴムの塊のようになっているということだ。
勢いがつき過ぎたせいか全身が針金のような細さまで伸び縮みしてぐちゃぐちゃになり、更には空中でヘリのプロペラみたいに高速回転したりしだしている。
――何故ヘクターがこんなことになっているかと言うと、ゲームを作っているときに俺が物理演算の数値を弄って遊んでいてからだ。
あっちこっち高速で伸び縮みして跳ね回る姿が面白く、当時はその姿を見て笑い転げていた。
くそっ!げらげら笑っていた過去の自分を殴りたい!
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