第一関門
俺達は覚悟を決めて、水玉模様が描かれたファンシーな扉を開けて中へと進む。
『それでは第一の関門『おかしなおかし』です!』
カメラなどは見当たらないが、俺たちの行動が見えているらしく実況が聞こえてくる。
スルーしつつ扉を潜ると山道の様にぐねぐねと蛇行した手摺の無い橋が奥まで続いており、壁からは土管のような物が迫り出している大部屋だった。橋の下はすり鉢状になっており、中心には大きな穴が開いているのが見える。
土管からばふん!と気が抜けるような発射音と共にケーキやクッキー、アイスなどお菓子を模した大きな物体が飛び出して来る。柔らかい素材でできているのか、橋の上を風船のようにふわふわと弾んでいた。
「いきなりメルヘンになったね!?」
理亜が意味の分からなさに叫ぶ。
もはや世界観がぐちゃぐちゃである。剣と魔法の中世ファンタジーはどこにいったのだろう……。
――装甲車で移動している時点で中世ファンタジー感など跡形もないけどな!
「見たこともない様式の建物だな。部屋の奥まで行けばいいのか?」
「……多分、そうです」
グリドの訝しげな呟きを肯定する。
この場所は見ての通り、飛んで来るお菓子の様な物体を避けてゴールを目指すコースだ。変更されていなければこの様な部屋が幾つか続き、一番奥の場所にたどり着ければ魔王軍の幹部と戦えるはずだ。
俺たちは部屋に足を踏み入れ、落ちてくるお菓子を避けながら橋を渡っていく。
その時に飛んで来たアップルパイを手で押し除けようとしたが……。
「うおっ!?結構重いぞこれ!」
アップルパイもどきの軌道を少しだけずらすことしかできなかった。
弾んでいる割には重量があるのか、直撃したら橋の外に押し出されそうだった。
お菓子を模した謎の物体は甘い香りをしていて、押し退けるときに鼻腔をくすぐる。
何で匂いまでついてんだよ……。
落ちないように注意しながら進んでいると、どこからともなく実況たちの声が聞こえる。
『危な気なく順調に進んでおります!』
『ペースを大事にしていきたいですね』
『ザインさんは勇者たちがこのダンジョンをクリアできると思われますか?』
『なにせ勇者ですからね。神秘の力で乗り切るかもしれませんよ』
「……さっきから喋ってるこの人たちも一体なんなの」
理亜が疲れた顔で顔をしかめる。
「…実況と解説?」
「それは分かるよ。私が言いたいのはなんでスポーツ中継みたいなアナウンサーがいるのってことだよ」
俺も何故この連中を配置してしまったのか分からない。
サンプルゲームの中に実況者も一緒に入っていたので、まとめて適用してしまったのだろうが、煽られている気がしてイラっとくる。
というか、はっきりとは覚えてないが元のデータではここまで台詞の多いお喋りなキャラクターたちではなかったはずなんだが……。
「魔王は何でこんな変なアトラクションを作ったの……?いったい何を考えているの……?」
お菓子を避けながら理愛が疑問を口にしている。
魔王は何も考えてないだろうな。設置したの俺だし。なんなら元凶の俺も何も考えていない。
「殺傷能力はなさそうですよね。落ちたら何かあるのでしょうか?」
エリアスも疑問なのか、走りながら橋の下を見る。
だが、別に何もない。落ちたら戻されるだけである。
「怪我をさせる気がないのが気になるな。もしかして、目に見えない何かの精神か魂への攻撃か?」
グリドの考えは当たらずと雖も遠からずだ。外れているのは敵がやっているのではなく俺自身であり、精神ダメージを受けているのは俺だけである。
彼らが頭を悩ませている状況を見て申し訳なく思う。理由を教えることができないのがもどかしい。
お菓子が発射される間隔は緩やかなおかげか、押し出されることなく橋を掛け抜けて無事にゴールまで辿り着くことができた。
第一ステージなだけあって難易度は高くないらしく、一度も脱落せずにクリアした。
『見事にクリアしました!流石は勇者一向ですね!』
『最初のステージなので簡単ですからね。ここは問題ないでしょう。本番は次のステージからです』
実況たちを無視しつつ、次の部屋へと進む。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます