古城

 装甲車を降りたグリドが斧を担ぎ、ファンシーな建物を見上げる。


「ここが古城か」


「古城!?ここが!?」


 グリドの言葉に千歳が驚愕している。


 驚いて当然だろう。歴史を感じさせない可愛らしい建築物に古城成分なんて一切ない。


 ……一応、データの上書き前に古城がモチーフのダンジョンを設置していたのは本当なんだが、到着した場所には見る影もない。


 俺たちも車を降りて建物に近づくと扉が独りでに開く。


 そして、どこからともなく声が聞こえてきた。


『第一回、古城ダンジョン攻略!!間もなく始まります!!』


「――は?」


 突然前振りもなく聞こえてきたハイテンションなナレーションに、理亜が絶句して固まる。


 軽快でポップな音楽が中世ファンタジーに似つかないスピーカーから流れ出し、本当に遊園地にでも来たような気分になる。


 実際はそんな楽しいものではないが……。


『今回挑むのは勇者一行!勇者たちは立ち塞がるアトラクションを突破し、魔王軍幹部の元へ辿り着けるでしょうか!実況は私、『ターフェス』と!』


『解説の『ザイン』でお送り致します』


「え?え!?」


『彼らは無事にクリアできるでしょうか!ザインさんはどう思われますか!?』


『この古城のダンジョンを踏破できる可能性が最も高い挑戦者たちですからねぇ。期待が高まります』


「な、なにコレ!?どういうこと!?日月くん何これ!?」


 理亜が取り乱しているが仕方のないことだろう。


「ハハハッ!ホントになんなんだろうな……」


 ファンタジー世界を舞台にしたアクションRPGにあるまじきファンシーな物体とナレーションだ。


 製作者の俺も何故こんな物を設置しようとしたのか分からない。

 きっと何も考えてなかったのだろう。


 …………このダンジョンなのだが、ゲーム製作するにあたり無料で使えるフリー素材を調べていたのだが、その中にバラエティー番組を思わせるアトラクションを集めたサンプルゲームがあった。様々な障害物のアトラクションをクリアしていき、ゴールを目指すというアスレチックを思わせる内容だ。


 これもグリドにペンギンのデータを反映させた理由と同じく完成度が高くて目に留まり、ちょっと動かしてみようと思い至ってしまったのだ。


 反映させるまでは良いのだが、ご丁寧に古城のダンジョンデータに上書きしてしまっていた。これが関係ない場所に新たに設置したとかならわざわざ挑む必要はないのに、よりにもよってストーリー上絶対に通らなければならない場所に置いてしまっている。


 本当になんてことをしてくれたんだ……。


 父親が言っていた『パソコンで作業するときはこまめにデータのバックアップを取れ』と言っていたのが思い起こされる。


 俺がげんなりしていると、エリアスが励ましてくる。


「皆さん、ここが最後のダンジョンです。頑張りましょう!」


「……それもそうですね」


 魔王軍幹部はこのダンジョンの最深部にいる。神器の欠片を持っている以上、このふざけたアスレチックは必ずクリアしなければならない。


 どうせやらなければならないのだし、さっさと通り抜けしてしまおう……。


 それに前向きに考えれば、このアスレチックには出現する魔物の設定していないため、魔物と戦う必要がないという利点がある。さらに、アトラクションのクリアに失敗してもスタート地点に戻されるだけだったはずなので命の危険もない。そう思えば少し気が楽になるな。


「えぇ……。どいうことなの……?魔王を倒すファンタジーじゃなかったの……?」


 理愛がダンジョンを得体の知れないものを見る目で困惑していた。


 ……マジすんません。

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