装甲車

 魔女を倒した後、イベン司祭の厚意でキャンプ地にあった装甲車を譲ってもらった。


「こちらの乗り物は魔王討伐のために、是非ともお役立てください。旅の移動を楽にしてくれるでしょう」


 エリアスの予想通り、あの軍用キャンプ地は司祭が用意したものらしい。


 いや、本当にどうやって用意したんだよ。

 誰か納得のできるできる理由を説明してくれ。


 ……イベン司祭と別れ、俺たちは装甲車に乗り込み三人目の魔王軍の幹部がいるダンジョンへ向かう。


 それにしても、中世ファンタジー世界を装甲車に乗って移動するってどうなんだ?


 しかし、最後の神器の欠片を持つ魔王軍の幹部はこの国の東側にあるダンジョンにいる。廃村からは国の反対側に位置するため、ウエストタウンからはかなりの距離があるらしい。馬車を使っても結構な日数が掛かるらしく、車で移動できるのなら時間を短縮できる。


 魔物との戦いも避けられるし、雨風も凌げて快適だった。


 文明の利器様々だな。


 ついでに言えばガソリンの残量の心配もない。なにせ装甲車の燃料は魔石である。……これも一種のバイオマスエネルギーと表現して良いのだろうか?


 因みに運転しているのはエリアスである。


 彼女もグリドと同じく魔王討伐まで同行してくれると申し出てくれたので、有難くお願いした。


 ――それは良いのだが、シスターが軍用装甲車を運転している光景はなんともシュールだ。中世の世界らしく、道のほとんどは舗装されておらず荒れている。しかし、運転技能に問題は無い様で、悪路をものともせず軽快に走らせている。装甲車自体、険しい道に強い設計をしているとは思うが、それを差し引いてもエリアスの運転は上手い方だと思う。


 ……免許は持っているのだろうか?

 そもそも、この世界ってどの程度車が普及しているのだろう?


 気になってその辺りの事情をエリアスに聞いてみた。


「これは魔を滅するために、神様が遣わした乗り物なんですよ。方舟とも言われています。残念ながら数台しか現存しておらず、貴重な代物です」


「へー、なるほどー」


「ええ、このような貴重な物を貸していただいたイベン様には感謝しないといけませんね」


「はいー、そうですねー」


 エリアスの説明に俺は神妙に頷く。


「ちょっと日月くん、ツッコミを放棄しないで」


 理亜が小声で突っかかってくるが、俺はこれ以上考えるのをやめたかった。


 何がどうなったら中世ファンタジー舞台で装甲車が神の乗り物になるんだろう?


 ゲーム制作者の頭がバカという以外の答えが思いつかない。


「あっ、目的地が見えてきましたよ」


 過去の俺に悪態をついていると、運転していたエリアスが俺たちに呼び掛ける。


 車の進行方向に見えてきたのはピンクや水色や黄緑などパステル色で塗装された、やたらとカラフルで丸みを帯びた建物だった。


「……古いお城って話じゃなかった?」


 理亜が車の窓から顔を出す。風で帽子が飛ばない様に手で抑えながら、困惑気味に建物を眺めていた。


 縞々のラインや星形の模様が散りばめられた、メルヘンな遊園地を連想させる外観である。


 理亜の言った通り、どう見ても古城には見えない。


 ここまで来て、薄れていた部分の記憶も徐々にはっきりしてきていた。


 廃村の近くに軍用キャンプがあった時点で嫌な予感がしていたんだよな……。軍事キャンプがあるのなら、同時に設置したアレもそのままだったのではないかと。


 せめて手を加えたデータを保存していなかったら救いはあったのに、どうやらしっかり上書きしてしまったらしい。


 ……嫌な予感は再び的中した。

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