司祭
魔女を倒し、ゾンビが残っていないのを確認した後、俺は魔法で切り裂かれた傷に回復魔法を使って怪我を治していた。徐々に傷が塞がっていき、やがて完全に塞がる。
「……魔法って本当に便利だな。元の現実世界でも使えるようにならないかな?」
「そうだね。色々な使い道がありそうだし」
理愛と頷き合う。
傷が治るとゾンビのいなくなった廃村で、俺たちは司祭を探し始めた。
「イベン様!いらっしゃったら返事をしてください!」
エリアスが大きな声を出しながら瓦礫の山を回っていた。
辺りを見渡しても人の気配はなく、司祭が生き残っている可能性は低いが、ゼロではない。
司祭は『イベン』という名前らしく、俺たちも彼の名前を呼びながら廃村を探索する。
「――その声はエリアスですか?」
探し回っていると、とある瓦礫の山から返事があった。元は一軒家だったであろう、半壊した建物だ。
「イベン様!そこにいらっしゃるのですか!」
急いで駆け寄り、四人で手分けして崩れ落ちた瓦礫を除けると、中から一人の男性が出て来る。
「ご無事でしたか、イベン様!」
出て来た人物を見てエリアスが安堵する。
どうやら無事だったらしい。
しかし、瓦礫の中から現れた司祭の様子がおかしい。
直立不動の棒立ちでスーっと地面を滑るように倒壊した建物から出て来た。
瞬きすらせず目を常に見開き、呼吸をしている様子もなく体がピクリとも動かない。
「ありがとうございます。ご心配をお掛けしましたね」
喋っているはずなのに司祭の口が一切動いていなかった。
な、何だこの人……?
理亜もドン引きしたように司祭を見ていた。
「に、人形…?」
理亜が思わず呟いたように、現れた司祭はゾンビ以上に生気を感じられなかった。
呻き声を出したり襲い掛かってこようとしていた分、まださっきのアンデッドたちの方が生きている気がする。
外見は普通の男性の司祭なのだが、精巧な蝋人形のようだった。
「魔王軍幹部である魔女を倒すとは、強くなりましたね」
司祭が感心したような声でエリアスに言う。
声だけで口は動いておらず、表情も全く変わっていなかったが。
「偶然通りがかった勇者様たちにご協力をお願いしたんですよ」
「なんと、勇者様が!」
ホバー移動するかのように俺の元へ滑って来る。
「助かりました勇者様。感謝致します」
「い、いやあの、それはいいんですが……。ほ、本当に何ともないんですか……?魔女に何かされてませんか?」
微動だにしない司祭にたじろぎ、同時に不安が広がって心配してしまう。
もしかして魔女に石化の呪いでも掛けられているのか?
その方がまだ理解できるんだが……。
「ええ、おかげさまで。少し怪我をしてしまったぐらいで済んでいます」
口を全く動かさずに司祭が答える。
スピーカーを埋め込んだ人形と話している気分だった。
「……まさか」
もしかしてこの司祭、喋るとか体を動かすモーションが一切設定されてないのか……?
「本当に心配しましたよ」
「生きていてなによりだ」
グリドとエリアスが安心した様に言う。
「すみません。加勢できれば良かったのですが、この通りラフネとの戦いで怪我をしてしまい、足手纏いになるかしれないと隠れておりました」
怪我をしているらしいが、どこを負傷しているのだろうか?
どこも怪我をしているようには見えない。服の破れどころか新品のように汚れ一つなく、血が出た形跡もない。
「イベン司祭の身に何かあったらどうしようかと気が気でありませんでしたよ。勇者様たちと出会えたのは幸運でした。」
「志は立派だが、無茶をし過ぎだな」
「お恥ずかしい限りです」
しかし、エリアスもグリドもまるで当然のことの様に何も言わずに会話している。
三人共疑問に感じている様子はなく、それが普通であるかの様な態度だった。
「もしかして、本当におかしくなっているのは違和感を覚える俺の方なのか……?」
「気をしっかり持って日月くん!おかしいのはこの世界の方だよ!」
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