魔女(1)
ゾンビが犇めく廃村をアサルトライフルで無理矢理突き進んでいるため、直ぐに弾切れを起こす。
慌ててリロードしようとするが、戦闘中にリロードするのが難しい。当たり前だが現実では銃なんて触ったこともないので、勝手が分からず手古摺る。
ええっと……、確か手順はまず本体の留め金を外してマガジンを引き抜き、新しいマガジンを引っ掛かけるようにして――。
そんな風にリロード中に隙を晒したせいか、一匹のゾンビが嚙みつこうと襲い掛かってきていた。
「危ない!」
エリアスが間に入り彼女の舌が伸びて先端が尖ったかと思うと、凄まじい速度でゾンビの額を貫いた。
ゾンビがビクンと痙攣し、動かなくなると黒い煙になって消える。
……見た目が美人なためか、余計歪に感じる構図だ。
エリアスの首だけがぐるんと百八十度回転してこちらを向く。
「勇者様、油断してはいけませんよ」
「は、はいいいい!!」
フクロウかアンタは!?
人間の首はそんな風に動かないが!?
エリアスの挙動を間近で見ていたせいで恐怖が駆り立てられ、手が震えて更にリロードに手間取った。
「あっ!」
その拍子に手が滑り、足元にマガジンに入れていなかった弾丸をばら撒いてしまう。
弾丸もそこそこ重いから持ち込んでいる数にも限りがあるのに落としてしまった。ゾンビたちが押し寄せて来ているので、回収している時間も無い。
なんでファンタジー世界でパニックホラーを体験しなきゃならないんだ!?
「いたぞ!あそこだ!」
グリドが声を上げて指を――翼でとある場所を指し示す。
そこにはボロボロの衣服を身に纏い、手足を引き伸ばした様な皮と骨だけのやせ細った姿をした魔女がいた。猫背なのか前屈みになっており、顔を覆い隠す乱れた長い黒髪をしている。髪が揺れた拍子に黄色く濁った眼が見えた。
「ゆうしゃぁああ……。ここぉがぁ、おまえぇたちのはかばだぁぁ……」
魔女の声は怨嗟で擦れきり、嫌悪感を抱く不気味な声をしている。
あれが魔王軍の幹部であるアンデッドの魔女ラフネだろう。
理亜みたいなハロウィンに着るなんちゃってコスプレ魔女ではなく、西洋の怪談に出てきそうなタイプのガチな風貌をした魔女である。
ラフネがカラスの様な黒い羽根の飾りがついた杖を振るうと、周囲に黒い霧が吹き出す。霧が人の形を取ると、そこからゾンビが出てきて、更に数が増え出した。
これでは容易に近づくことができない。
「先にゾンビたちをどうにかしないといけませんね」
エリアスの首が伸びて一体のゾンビに噛み付き、勢い良く振り回して投げ捨てる。
遠心力をつけて放り投げられたゾンビは他の者も巻き込み、まとめて廃屋の外壁にぶち当たって黒い霧となって消えていく。
手の爪が刃物のように鋭くなり近づいて来たゾンビたちを切り裂き、もう片方の手でサブマシンガンを撃ち抜く。
――八面六臂の活躍をしているが、戦い方が完全に化物である。
勇者の仲間だから正義の味方のはずなのに、アンデットの魔女と見た目の怖さで良い勝負をしているな……。
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