絵面

 シスターを仲間にでき旅が順調に進んでいる中、廃村までの道のりで事件は起きた。


 カマキリと蜂を合わせたかの様な見た目の虫型の魔物と遭遇し戦闘になる。大人よりも体格が大きく、厚そうな甲殻を纏った体は武器が通り辛そうだった。


 俺とグリドが武器を構えて前に出ようとするが――、


「私も戦います!」


 俺たちより先にエリアスが前に出た。


「なっ!?エリアスさん、危険ですよ!?」


 エリアスは前に出て戦うようなキャラじゃない。

 補助や回復魔法特化の聖職者だったはずだ。


 攻撃魔法が使えないこともないが、種類は少ない上にアンデット特効の魔法に偏っている。着ているものは軽装の修道服で持っている武器は理亜と同じく魔法杖。近接戦闘は言うまでもなく不得手であるはずだ。


 虫型の魔物には有効的な攻撃手段がなかったと思うが……。


 そう考えていたら、エリアスの首が急に伸びた。


「「え?」」


 思わず漏れた声が理亜と被る。


 そして、頭部を魔物まで一瞬で伸ばしたかと思うと、口が横に大きく裂ける。

 開いた口からは見えたのは、いつの間にか鋭く尖った牙で――、



そのまま勢い良く、虫型の魔物の頭部に咬み付いた。



「「!!!???」」


 バリバリと音を立てて、エリアスが魔物を咀嚼する。


 頭を嚙み千切られた虫型の魔物は力なく地面に崩れ落ちた。


「うーん、やっぱり虫は美味しくないですねぇ」


 嚙み砕くエリアスの牙の隙間からは、魔物を倒したときに出る黒い煙が漏れ出ていた。


 俺はその姿に絶句し、心の中で叫ぶ。


 ――やっぱり余計なことしてたあああああああああああ!?


 恐らく、これは魔物が使う技だ……。


 首を伸ばして嚙み付く魔物――食虫植物かなんかの魔物の攻撃手段だと思う。どういう技なのか確認するために、試しで適用したのだろうが……。


 なんでシスターのキャラデータで魔物の技を確認してんだよ、過去の俺!?


 せめて確認が終わったら技の設定を外せよ!なんでご丁寧にデータを上書き保存してるんだ!?


 過去の俺は本当に余計なことしかしない!


「あ、あの人、本当に人間なの!?実は魔物じゃないの!?」


 理亜が思わず俺の腕に抱きついていたが、その事を意識する余裕もなく俺もシスターを見て震えていた。


「ゴブリンだけじゃなく虫も苦手なのか?」


 グリドが震える俺たちを見て愉快そうに笑っていた。


 違う、そうじゃない!


 魔物の見た目が大きな昆虫だから多少は驚いたが、虫が苦手な訳じゃないんだ!


 というか、シスターの首が伸びて虫を食べるという状況に疑問を持ってくれよ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

崩壊不条理世界のストーリーテラー 白河夜船 @shirakawa_yofune

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ