呼び名
翌朝、宿屋のフロントで千歳と合流したときにグリドが話を振った。
「これから俺たちは魔王討伐のため、連携を強化しなくてはならない。このまま苗字呼びも他人行儀だし、お前さんたちのことを名前で呼んでいいか?」
昨日寝る前に言っていた話だろうか?
「俺は構いませんが……」
俺はグリドの言葉に頷く。
「嬢ちゃんはどうだ?」
「私も大丈夫ですよ」
千歳も特に嫌がることもなく承諾した。
「なら名前で呼ばせてもらうよ。そう言えば、二人は俺よりも付き合いが長いんだろ?この際、二人も名前で呼びあったらどうだ?」
「え?そ、そうですね…」
グリドが言ったことに千歳が少し動揺している。
――これは嫌だからなのか、それとも意識しているからこその反応なのかどっちだろう?
しかし、この機会を逃すと次にいつタイミングが来るか分からないので、勇気を振り絞ってこちらから呼んでみようとする。
「えっと、千歳」
「は、はい!なんでしょう!?」
……なぜ敬語?
「俺も『理亜』って呼んでいいか?」
「あ、う、うん……。いいよ『日月くん』……」
照れたのか彼女の顔が赤い。
俺も少し顔が熱い自覚がある。下の名前で呼び合うのに気恥ずかしさ感じた。
このやり取りだけを見れば良い雰囲気だ。なんというか青春していると感じる。
しかし、周りが壊滅的である。
仲を取り持ってくれたのは斧を持ったペンギン。
ドット絵の様な見た目をしたカウンターの男性。
宙に浮く従業員。
壁に突き刺さってガタガタと今も振動している観葉植物たち。
「………………」
――ふと、ドラマとかで高級レストランで食事をしている時に良い雰囲気になるというシチュエーションを思い出した。一回の食事で何であんなにも高い金を払う必要があるのかと疑問だったが、あれって正しいことだったんだな。
雰囲気作りだけでなく、余計な邪魔が入らないようにするのはとても重要な事なんだと痛感した。
周囲に変なバグが多発しているせいで台無しである。
ムードを作るって大事なことなんだな……。
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