追い打ち
時々犬の鳴き声を出す不思議な馬車に揺られること三日。ようやく次の町に着いた。
馬車で移動しているので歩くよりも楽といえば楽だが、ずっと座っているのも結構辛かった。
座り心地も良くないし、道が舗装されていないのでよく揺れる。
おまけに魔物たちも時々現れて戦闘になるため、気が抜けなかった。
「ちょっと気持ち悪い…。船酔いしてるみたいだよ…」
千歳がふらつきながら馬車を降りる。
同感だ。俺も若干船酔いしてるみたいにふらふらと体が揺れる感覚に陥っている。
「ありがとうございました」
「頑張ってね!応援してるよ!」
「健闘を祈る」
「ワンワン!」
妙に可愛い声を出す御者の親父と、低い男性の声をした少女に運んでくれたお礼を言って別れる。
辿り着いた町の名前は『ウエストタウン』。
ボルカニックイラプションとは違い普通の名前の町だが、今度は安直過ぎる名前だな……。
もう少し捻った方が良くないか、過去の俺?
町に入って周りを見渡すと修道服を着ている人たちが目を引いた。多過ぎるという程ではないが、王都やボルカニックイラプションと比べると割合が高い。
宗教が盛んな町なのだろうか?
すれ違う人々も質素というか地味な服装が多い。
建物も装飾の少ない木造のものが多く、全体的に質素な印象を受ける。
町に着いたときは日が沈み掛けている時間だったため、俺たちはそのまま宿屋に向かった。
「いらっしゃいませ!」
宿屋に入るとカウンターの従業員が明るい声で挨拶をしてくるが――。
「「…………」」
その宿屋の惨状を見て言葉を無くした。挨拶をしてきた男性と思われる従業員だが、目の粗いドット絵の様な姿になっていると言えばいいのだろうか?
四角い色を並べたレトロゲームに出てくるキャラクターみたいな、モザイクというかギザギザとした見た目になっていた。
……解像度が低いテクスチャを使ってしまったんだろうな。
そして、カウンターの横に視線を向けると、鉢に植えられた観葉植物たちが何故か壁にめり込み、ガタガタと小刻みに振動していた。
……多分あれだ。観葉植物のオブジェクトが位置ずれを起こして、壁にめり込んでしまっているのだろう。そして、観葉植物が元の位置に戻ろうとして壁から抜け出そうとしているが、引っこ抜けるだけの力が足りず。結果、壁と一体化して振動するに留まっているのだと思う。
物理演算を多用したゲームではよくあるバグなのだが、現実で見ると凄いシュールだな……。
というか、こんないらんバグまで忠実に再現すんなよ!壁にめり込んだらそのまま壊れろ!
何を基準に作られてんだこの世界……。
「宿を取りたいのだが、空きはあるか?」
グリドは相変わらず違和感を覚えている様子はなく、普通に従業員に話し掛ける。
「はい、三名様で宜しいでしょうか?」
「ああ」
「お部屋は分けますか?」
「ん?そうだな……」
グリドが振り返って千歳の方を見る。
「ごめん、今日は別の部屋にしてもらってもいい?」
千歳は疲れた様子で言う。宿を取るときは安全性を考えて、今までは俺と一緒の部屋で泊まっていたが、今回はグリドもいる。見た目はペンギンだが、中身は知り合ったばかりの成人男性だ。加えて馬車での移動でも疲労が蓄積したのだろう。
水を出す魔法が使えるおかげで馬車での移動中も体を洗うことはできたが、夜は魔物を警戒して交代で見張りをしなければいけなかったため、どうしても眠りが浅くなる。
ついでに、目を覚ますと現実に戻っていたということもなかったため散々だった。
荒くれ者が多いボルカニックイラプションとは違い、この町はすれ違った人たちから治安が悪そうなイメージはない。恐らく一人でも大丈夫だろう。
いざとなったら理亜は魔法が使えるし、勇者の加護もあるのでそこらの人間に遅れをとることはない。
「俺は構わないよ」
「ま、年頃の娘さんがいたら別々の方がいいわな」
俺とグリドは同じ部屋で千歳は別の部屋と、男女で別れることになった。
フロントの従業員は「かしこまりました」と頷き、他の従業員を呼ぶ。
「では、ご案内します」
「「…………」」
呼ばれた女性の従業員が俺たちを案内しようとするが、何故かその人は三十センチほど床から浮いていた。
足を動かして地面を歩く様な動きをして足音も聞こえてくるが、空中に浮いていて地面に足がついていない。
この人も火山の洞窟にいたイノシシと同じく、位置ずれを起こしているな……。
「もうやだ、なんなのこの世界……」
千歳は眩暈がするのか手で顔を覆っている。
……すまん、こんなバグだらけの世界に巻き込んで。
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