馬車

 火竜を無事倒し、ボルカニックイラプションの町に戻ってきた。


 次の魔王軍の幹部、二つ目の神器の欠片を持つボスがいる場所の近くの町には馬車が出ている。グリド曰く、歩くとかなりの日数が掛かるらしいので、今度は馬車を借りて移動することになった。


「俺も魔王討伐に力を貸そう。火竜を倒すのを手伝ってもらったからな。最後まで付き合おうじゃないか」


 ストーリー通り、グリドは魔王討伐の旅に加わってくれるらしい。


 こちらとしても、戦える人物が――ペンギンだけど――仲間になってくれるのはありがたい。


「ぜひともお願いします」


「おう、任せろ」


 何とか順調に進んでいる。このまま何事もなく魔王も倒して、元の世界に帰ろう。


 そう意気込んでいた。


 ――もちろん、そんな儚い願いは直ぐに打ち砕かれたが……。


 次の幹部がいるのは王都から西に位置する廃村であり、廃村近くの町に行く予定の馬車に乗ったのだが、その馬車で早速問題が起きた。


 馬車は中年の男性の御者が引いており、十歳を過ぎたぐらいの娘さんも乗っていた。


 馬車は人を運ぶと同時に、荷物や手紙なども一緒に運ぶのが一般的らしい。その少女は荷運びのお手伝いとのことだ。


 荷台で少女が俺たちに話し掛けてくるのだが――、


「ほう、お主らが勇者か。随分と若いな」


 年端も行かない少女の口から、何故が低い男性の声が聞こえてくる。


「凄いね!お父さんも勇者様なんて初めて見たよっ!」


 そして、御者台に座る髭を生やした男性から元気な幼い少女の声が聞こえてくる。


 ……これ、明らかに声が入れ替わっているよな?


「ど、どうも~。お仕事のお手伝いをするなんて偉いね~……」


 千歳は顔が引き攣らせて視線が泳いでいた。しかし、いい加減不条理な現象に慣れてきたのか、会話を流すことぐらいはできる様になったらしい。


 ちなみに元凶の俺は「馬車なんて初めて乗るなぁ~」と現実逃避していた。


「魔王軍の幹部がいるらしい西の廃村に向かうところでな。近くの町までよろしく頼むよ」


 グリドは違和感を覚えないのか、普通に親子と会話をしていた。


「大したことは出来ぬが、目的地まで無事に届けられるよう精励恪勤に努める」


 親子の方もペンギン姿のグリドに戸惑を感じている様子はない。


 王城や酒場の反応から考えて、この世界に元々いる人物たちには俺たちと見えているものが違うということだろうか…?


「よし!世界平和のため、お父さんも頑張って早く到着できるようにするね!」


 御者の男性が馬に軽く鞭を打つ。そして、鞭を打たれた馬が返事をする様に鳴いた。


「ワン!」


 ――馬よ、お前もか………。

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