火竜
仕掛けの予想は当たっていたのか、左右のレバーを同時に引くと大扉が開く。鉄の大扉をくぐり抜けて奥に進むと大広間が見えて来た。
ここが火竜が潜む火山の最奥にある祭壇らしい。
グリドは油断した様子はなく、火竜の対策について話をする。
「火竜はその名の通り、炎を中心にした攻撃をしてくる。吐く息は灼熱で火の魔法の扱いにも長ける。体は固い鱗に覆われていて刃が通り難い。鋭い爪や牙、長い尻尾も厄介だな」
普通に戦えば間違いなく強敵だろうな。
しかし、俺にはこのゲームの攻略方法を知っている。
「大丈夫です。準備は王都で整えてきました」
「王都?もしかしてお店で買い物してたあれのこと?」
「ああ」
千歳が尋ねてきたので頷く。
「何を買ったんだ?」
「魔力回復薬ですよ」
魔力回復薬は文字通り、飲んだ者の魔力を回復する薬である。
魔法を使うには自身の魔力を消費する必要があるため、無尽蔵に魔法を使うことはできない。
魔力は時間が経てば自然と戻るらしい。しかし、火竜との戦闘中に一時的に離れて休憩なんてできない。
そういうときはこの魔力回復薬を飲めば短時間で魔力が戻り、再び魔法が使えるようになるということだ。
それを王都で多めに買っておいた。
「魔法で倒すつもりか?有効だとは思うが、奴は魔王軍の重鎮を務めるだけあって体は頑強だ。魔法だけでは押し切れないぞ」
「問題ありません。考えがありますので」
千歳とグリドに作戦を教えた後、祭壇に突入する。
広間はコロシアムの様なすり鉢状の形をした遺跡だった。
周りの壁からは絶えず溶岩が流れ落ち、外周には溶岩溜まりができている。
中央の祭壇らしき場所には、尻尾も含めれば十メートルはあろう巨大な赤い竜がいた。
光を反射する赤い鱗に巨大な爪。額には燃え上がる大きな角があった。
火竜は俺たちに気付くとこちらを睨みつける。
「……魔王様が勇者が現れたと言っていたが、貴様らのことか?」
火竜の口の端から火の粉が漏れる。
最初に相手するはずの中ボスなのに、随分と強そうな見た目をしている。
「魔王様の手を煩わせる必要はない。ここで我が消しとば」
「『アイスボール』!」
「がっ!?」
火竜が長々と喋ろうとしていたが、俺は無視して氷の魔法を放つ。手のひらから飛び出した氷塊は、火竜の角へと勢い良く直撃する。
火竜は白目を剥いて仰け反った。
「き、貴様ァ!人が喋っているときにいきなり不意打ちするなど…!それが勇者のすることか!?」
人類を滅ぼそうとしている奴がなんか言い出した。
だが、別に俺は好きで勇者をやっている訳じゃないし、相応しくなくても構わない。誰か代わってくれるなら喜んで譲るわ。
そもそも、俺は戦いに関してはほとんど素人同然。対して火竜は戦いに長けた魔王軍の幹部であるため、勇者の加護があろうともまともにやり合ったら勝てるかどうか分からない。むしろ負ける可能性の方が高いだろう。
楽に勝つ方法があるなら躊躇う必要はない。
「卑怯者が!魔王軍幹部のこの火竜フレ―」
「『アイスボール』!」
「ごふっ!?」
激高する火竜に更に氷塊をぶち当てた。
「おのれ!勇者の風上にもお」
「『アイスボール』!」
「ぐあ!」
「『アイスボール』!!」
「ちょ!お、落ち着」
「『アイスボール』!!!」
「い、一度仕切り直」
「『アイスボール』!!『アイスボール』!!『アイスボール』!!!」
「ぐぼあっ!?」
火竜は迫力満点の強いボスである。まともに戦えば苦戦は必須。
しかし、この火竜、氷魔法を角に当てると大ダメージを食らい、おまけに『怯む』。
一度怯むと攻撃動作が中断されてしまう仕様がある。こういったゲームのボスは弱点は徐々に効きづらくなるとか、怯んだ後に反撃してくるとかの対策が施されている。ワンパターンで倒すことができないようになっているのが普通だが、そういった対策もされてない。
盛り上がるはずの魔王軍幹部との戦いで、何故そんな致命的な弱点が設定されているかというと――ただのバランス調整ミスである。
普通のゲームならなんの工夫もなく同じ魔法を使い続けるだけでボスが倒せてしまうなんてクソゲーもいいところだが、これは小学生が作ったゲームである。
プレイヤーを楽しませよう!なんて殊勝な心掛けで作られてなどいない。
そもそも誰かにプレイしてもらおうとか思っていなかったし。
「さあ、グリドさん!今の内に畳み掛けてください!」
「え!?お、おう!」
俺の容赦の無さにグリドがドン引きして固まっていたが、斧を持ち直して火竜に切り掛かる。火竜は慌てふためいていた。
「そ、そんな卑怯な戦い方でいいのか貴様らは!?もっと名誉ある戦いを」
「『アイスボール』!!」
「ぬおお!?」
卑怯?名誉ある戦い?
過程なんてどうでもいい。
勝てばいいんだよ勝てば!
俺と千歳の第一目標は元の世界に帰ることだからな!
絶え間なく氷塊の魔法を角に当て続け、その隙にグリドが追撃する。無駄のない見事な連携だった。火竜は為す術なく一方的にやられている。
「く、くそッ!しかし、我が倒れる前に、先に貴様の魔力が切れ――」
「千歳頼む!」
「まかせて!『アイスボール』!」
「なあっ!?」
交代で今度は千歳が氷魔法を放つ。
その間に俺は魔力回復薬の瓶を開けて、中の液体を一気に飲み干した。
「まずっ!」
薬草を煮詰めた様な味をしていて、決して美味くはない。
「どんな味だった?『アイスボール』!」
「お茶と漢方薬を混ぜ合わせて煮詰めた様な感じだよ。何度も飲みたくはないな」
「メロンソーダみたいな綺麗な色してたし、もしかしたら美味しいかもって思ったけど違ったかぁ…。『アイスボール』!」
「こ、虚仮にしおって!貴様らなど我の炎で灰にっ――!」
俺と千歳が呑気に食レポ談義していたのが気に食わなかったのか、火竜が怒り狂っていた。しかし、一度もこちらに攻撃することができていないので全く怖くない。
これが俺の考えた火竜討伐の作戦だ。俺と千歳のどちらかが氷の魔法を火竜の角に当て続ける。魔力が切れれば交代して魔力回復薬を飲み、魔法が使える様になるまで休憩。魔力が切れそうになったら再び交代して魔法を使う。その間、グリドは隙だらけの火竜に斧を叩き込むといった感じだ。
作戦は予想以上に上手くいき、火竜はボコボコにされていた。
「まだだっ…!まだ終わりはせんぞっ…!」
幹部の意地か、火竜がこのまま終われないと氷の魔法やグリドの攻撃を受けて身を削りながらもこちらに特攻しようとしてきた。
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