第一のダンジョン(2)
石橋を渡り奥へと進むと重そうな鉄の大扉が見えて来る。二階建ての建物ぐらいの高さを誇り、明らかに人の力では動きそうにない大きさをしている。
「二人以上で行かないと奥に進めない場所があるという話を聞いたが、もしかしてここのことか?」
何かを思い出しながらグリドが扉を見上げる。
周りを見渡すと、扉を挟んで左右の少し離れた場所にレバーが見えた。
「同時にレバーを引けば扉が開くとかでしょうか?」
「なら、二手に別れるか」
話し合いをした結果、班分けは俺と千歳が一緒に扉の左側を、グリドが右側の担当となった。俺と千歳は戦い慣れている訳ではないので、人数が多い方が安全だろうという判断で二人組となった。
遺跡群を迂回して左側のレバーを目指して進むと、遺跡の柱の陰から魔物が飛び出してきた。
「プギィ!!」
全身に炎を纏った四足歩行の獣。
前に突き出た二本の牙があるからイノシシの魔物だろうか?
「俺がやる!千歳は援護を頼む!」
「わ、分かった!」
俺は前に出て鞘から剣を抜き、千歳は少し離れた場所で杖を構える。
イノシシの魔物は前に出た俺に狙いを定めたのか突撃してくる。
炎を纏っているため中々の迫力だが、タイミングを見計らい落ち着いて横に避ける。
戦いに抵抗がないわけではないが、少し慣れてきて状況を見極めることができるようになってきた。
突撃してくるイノシシに向かってすれ違い様に剣を振るう。
「待て!そいつは――!」
遠くからグリドが叫ぶ声が聞こえた。何事かと思ったが魔物が迫っているため、目を向ける程の余裕はない。
俺はそのままイノシシの動きに合わせて剣を振り抜くが――、
「何!?」
切った感触が全く無く、そのまま剣が通り過ぎた。
もしかして幽霊みたいな実体のない魔物なのか?と思ったその直後。
「ぐはっ!?」
何もないところか急に重い衝撃が来て吹き飛ばされた。体が宙を舞い、硬い地面に叩き付けられる。
「栗寺くん!?」
千歳が驚いて声を上げる。
痛みはあるが、勇者の加護のおかげか幸いにも骨折などはせず、直ぐに起き上がれた。
「な、何だ!?他にもいるのか!?」
別の魔物が出てきたのかと急いで周りを見渡すが、他に魔物は見当たらない。
もしかして姿を消す能力がある魔物か!?くそっ、厄介だな……。
反転して再びイノシシが突撃して来たので慌てて回避しようとする。
しかし、反対側のレバーの場所にいたグリドが叫ぶ。
「その『フレイムボア』は見えている姿と実体は別なんだ!」
「え?ごふっ!?」
当たってないのにまたも弾き飛ばれ、地面を転がる。
そして、理解した。
――こいつ当たり判定がずれているじゃねぇか!
ゲーム制作において、キャラクターの見た目と触れることが可能な場所というのは自動で合わせてくれるわけではない。制作ソフトにもよるだろうが、ひとつひとつ手作業で設定しなければならないのだ。
だが、何度も言うがこのゲームはかなり適当に作られている。
恐らくはこの魔物の当たり判定も雑に設定しまっていたのだろう。
気が付いて注意深く聞いてみれば、見えている姿とは別のところから足音が出ている。
このイノシシの魔物もゴブリンと同じく設定がおかしかった。
戦い辛いな!?
「『ワイドサンダー』!」
俺が苦戦している様子を見てか、千歳の広範囲の魔法を使って援護してくる。千歳を中心に扇状に雷が広範囲に放射される。イノシシの魔物も巻き込まれる場所にいたが、そのまま電流がすり抜けていった。
しかし、イノシシの後方で電撃が流れず、とある地点で魔法が止まっている場所があった。
「そこか!」
急いで近づき剣を振るうと、今度こそ切った感触があった。
「ブギィ!?」
何も無い様に見えたが、予想通り実体は透明になっていたらしい。
見えている姿の方も連動して剣で斬られたような動きをしている。
倒れて黒い霧になって消えるところを見ると倒せたらしい。
「栗寺くん無事!?」
「あ、ああ、助かったよ。ありがとう」
二度も吹き飛ばされた俺を心配してか、千歳が駆け寄って来る。
体が痛いが、幸いにも打撲程度で済んでいた。
それにしても本当に碌な敵がいないな……。変なもので溢れるこの世界を作った過去の俺を呪いたくなる。
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