第一のダンジョン(1)

 辿り着いた火山の洞窟周辺には草木がほとんど生えておらず、見渡す限り岩石ばかりで荒れた場所だった。


 所々に赤熱した溶岩が溢れ出ているのが見える。常に足元には気をつけないといけないな。


「流石に火山は暑いな」


「そうだね。夏みたい」


 千歳は手で扇いで少しでも涼もうとしている。因みに元の世界の季節は秋だった。せっかく夏の暑い季節が終わったのにまた気温で悩まされるとは。


 洞窟の中に足を進めると、山の中を刳り貫かれたように大きな空洞が広がっていた。


 千歳が不思議そうに洞窟の奥を眺める。


「あれって遺跡かな?何でこんな火山の中に?」


 火山の洞窟の中には煉瓦で作られた古い遺跡が点在しているのが見えた。


「この遺跡は大昔にとある民族の手で作られたと聞いたな。なんでも火山を神聖な場所として崇めていたとか」


 グリドはこの火山について情報を持っているのか俺たちに解説してくれる。


「簡単に奥には入れないように仕掛けが施されているらしい。例えばこことかそうだな」


 入口から少し進むと溶岩の池が前方に広がっており、奥に進む道が見当たらない。代わりに不自然な岩の大皿が壁際に置いてあった。


「町で情報収集した話だとここは確か……」


 グリドが岩でできた大皿の横にある燭台に目を向ける。


「火の魔法を使って燭台に火を灯してくれるか?」


「……?分かりました。『バーニング』!」


 何でそんなことを?と不思議に思いつつも、言う通りに火の魔法を使って燭台に火を点ける。


 すると遺跡の壁から溶岩が流れ出し、岩でできた受け皿に注がれていく。


 しばらくすると受け皿が満杯になり、受け皿が土台ごと地面に沈み込み重い何かが動く音が聞こえた。


「お、おお!凄い……!」


 地面が揺れたかと思うと、溶岩の池の中から石でできた橋がせり上がってきた。溶岩で熱されていたのか赤熱しているが、時間が経って冷えたら問題なく渡れそうなほど頑丈な橋だった。


 まだまだ曖昧だが、ゲーム制作の記憶が蘇ってきた。この火山に潜むボスの火竜がいる場所に辿り着くには遺跡のギミックを解除する必要があり、こういうからくりがあったことも思い出した。


「……なにこの無駄に壮大な仕掛け?何でわざわざ火山にこんなもの作るの?危なくない?」


 俺はファンタジーらしい仕掛けに感動していたが、千歳は納得していない様子だった。


 不可解そうにしているが、これはゲームのお約束である。何もないダンジョンよりも、謎解き要素や細かい設定があった方が見栄えがいいし、何より遊んでいるプレーヤーも楽しめるからな。現実的に考えたら不合理的で違和感があるのは仕方がない。


 とは言っても、この火山の洞窟は俺が作ったものではなく無料配布されていた、最初から完成しているダンジョンデータである。小学生の俺にここまで凝ったデータを一から作る技術はない。


 この壮大な遺跡の仕掛けも、何かしら作り手のこだわりがあったのだろう。


「この遺跡って明らかに人の手で建築されてるよね?火山が噴火したら崩れて埋もれそうな場所に、何でこんなもの作ったの?かなりの労力とお金を使ったでしょ?」


「ま、まあ噴火で地震でも起きたら倒壊しそうな建造物ではあるよな……」


「そもそも、この受け皿の仕掛けも溶岩が冷えて固まるみたいな事故が起きたら、橋が上りっぱなしになるんじゃないの?」


 受け皿から溢れた溶岩は池に落ちていく仕組みになっており、溶岩は絶えず流動していて冷え固まるような事故は今のところ起こりそうにない。しかし、千歳が言った通り、何かの拍子で止まりそうな繊細な作りだ。そうなったら常に橋が架かりっぱなしになって仕掛けの意味が無くなる。


「奥に進むためにわざわざ火を灯して仕掛けを動かさないといけないなんて、欠陥住宅もいいとこでしょ」


 千歳が矛盾点をズバズバ切り捨てていく。現実基準で考えたら不都合ではある。


「た、多分あれだよ。神聖な儀式とかするための場所であって人が住む構造になってないんじゃないか?」


「……古墳とかピラミッドとかもそうだけどさ。あんなもの建てる暇があるならもっと他にやることあると思わない?」


 それもそうだな。お偉いさんとは言っても、あんなでかい墓作る必要はないよな。俺もどんだけ自己顕示欲が強いんだよとは思う。確か現代の技術を駆使しても、とんでもない金額と労力が必要なはずだ。

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