加護
宿の食堂で美味しくない朝食を取り宿を出る。
グリドとの待ち合わせ時刻まで時間があったので、町の商店に立ち寄って魔石を売ってみることになった。
しかし、ゴブリンやスライムを倒して手に入った魔石の買い取り価格は安い。町に来るまでにあった戦闘で手に入った魔石全部でようやく二人分の食事代一回ぐらいの売値である。
店主曰くゴブリンやスライムは弱くいため狩り易いが、魔石の純度というものが低いらしい。そのせいで安かったのだが、これが狩りにくくて強い魔物なら魔石の純度も高くなり、合わせて買い取り価格も上がるとのこと。
この辺りは妙にシビアというか現実味があるな。
町の火山方面の出入口に向かうとグリドは先に着いていたのか、出入口の扉近くの壁に背を預けて待っていた。
俺たちに気が付いたのか、気さくに挨拶をしてくる。
「よう、お二人さん。準備は出来ているか?」
「はい。俺たちは大丈夫ですが……」
昨日酒場であったときと同じ格好で、グリドは防具などを一切身につけていなかった。
「……グリドさんの準備は大丈夫ですか?」
「おう!見ての通りばっちりだ。入念に準備してきたぜ」
……見ての通り?
斧以外に身につけているものは見当たらないのだが……。
もしかして見た目がバグっているだけで、ちゃんと鎧とか装備しているのだろうか?
後ろから千歳が小声で話し掛けてくる。
「ねぇ、もう一回聞くけど、本当に大丈夫なの……?」
「だ、大丈夫だ……。きっと、恐らく……」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
火竜が住む火山の洞窟への道中、またしても動きのおかしいゴブリンたちに出くわした。
「うわぁ……」
近くの岩陰に隠れてこっそりと覗き見る。
最初に遭遇したゴブリンと同じ様に片足を空に向かって伸ばし、もう片方の足で跳ねながら頭を左右に振っていた。
数は六。今度は複数体いるせいか、薬でもキメて変な儀式をしているかのようだ……。
どん引きした千歳と微妙な顔でその光景を見ていると、グリドが笑いながら話し掛けてくる。
「なんだお二人さん。ゴブリンが苦手なのか?」
「まあ、苦手と言えば苦手ですね……」
主に見た目と動きが。
「それなら、俺が手早く片付けてやろう。加護ってのが、どの程度なのか確認したいしな」
加護というのは魔物と戦うとき仲間たちも強化される勇者の力のことだろう。グリドは仲間キャラだから問題なく適用されるはず。
……仲間だという判定ってどういう基準なんだろう?
「一人で大丈夫ですか?」
「問題ない。ゴブリンは集まってもたいして脅威じゃないし、この辺にいる連中は持っている武器も木の棍棒とか石斧とかだからな。もし勇者の加護とやらがなくてもなんとかなる」
グリドは岩陰から出て、足音を立てずにゴブリンたちの後ろに忍び寄る。ゴブリンたちに気付かれる前に素早く近付き、手前にいたゴブリンに背後から斧を振り下ろす。
「おらぁ!」
「ギャア!?」
歴戦の戦士というのは伊達ではなく、重そうな斧を軽々振り回していた。その太刀筋は綺麗で戦い慣れているのが分かる。
……ペンギンが斧を振るう姿はシュールそのものだったが。
「先ずは一匹!」
異変に気が付いたゴブリンたちが武器を持って群がろうとするが、先に動いたグリドが距離を詰めて斧を振り抜く。斧が当たったゴブリンは小枝の様に吹き飛ばされ黒い霧になって消えていく。
中には棍棒でガードしようとする者もいたが、粗末な材質で作られているからか斧を受け止めきれずに拉げ、体勢を崩したところをグリドに追撃されて切り伏せられる。
「ウギッ!」
「ギャギャッ!」
ゴブリンたちは奇声や変な動きをしながら両断され、次々と黒い霧になって霧散していった。
「ほう、なるほど。力が上がっているな。体も軽く感じる!」
グリドは自分の能力が上がっているのを感心しているようだ。
その後も、ゴブリンたちの変な動きから繰り出される棍棒や石斧を簡単に避け、返す刀で戦斧を振い、凪ぎ倒していく。
「これなら、あのトカゲ野郎もぶちのめせそうだな!」
予想した通りグリドは強く、ペンギンになったせいで弱体化しているということはなかった。
これなら心配はなさそうだな。
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