宿屋にて
食事を終え、俺が受付で宿を取るためにカウンターで手続きをしようと離れると、千歳が知らない男性に声を掛けられていた。
「お嬢ちゃん一人?」
「……え?私ですか?」
「そうそう。これから飲みに行かない?奢るよ」
「こ、困ります!未成年なので!」
その光景を見た俺は急いで戻って、二人の間に割って入る。
「俺の連れなので遠慮してください」
声を掛けた男は鉱山労働の町らしく、今まで見てきた人たちと同じく背も高く筋肉質だ。
しかし、怖がってはいけないと俺は男を睨みつける。
だが、男は「なんだ、連れがいたのか。そりゃ悪かった」とあっさりと引き下がる。
どうやらしつこく誘う気は無いらしい。
これ以上声を掛けられては堪らないと、俺は千歳の腕を掴み、急いでカウンターに戻って部屋を取る手続きする。
「あ、相部屋って……。く、栗寺くん、なんかこの世界に来てから大胆になったね」
しかし、勢いで思わず二人部屋を取ってしまった。
一応、ツインを選んだが、部屋に入ってから後悔が襲って来る。
「い、いや別に変な考えで取った訳じゃないぞ?ふ、普通に千歳が心配でだな…!」
ボルカニックイラプションは荒くれ者といった印象を受ける人物が多い。
千歳はか弱く見えるだろうから、一人にしておくとまたトラブルに巻き込まれるかもしれないと思い、それなら一緒の部屋の方がいいと思っただけだ。
だが、こうして二人きりになると嫌がられないかと心配になる。
「ほ、本当に千歳を心配しているだけだから!他意はないから!」
「し、信用してるからね?」
翌朝。
「まさか、本当に直ぐに寝るとは思わなかったよ」
宿で食事をとってシャワーを浴び、ベッドに横になると俺は直ぐに睡魔に襲われた。
「いやだって、色々なことが短期間で起きた上に、長距離を歩いたから疲れてたんだよ……」
俺は部屋に戻ったら疲労からか真っ先に寝てしまったが、どうやら千歳は就寝するまで時間が掛かったらしい。
「なんかさぁ……。いや、別に良いんだけどさぁ……」
千歳は釈然としない表情で文句を言っていた。
それにしても、一回寝たら現実で目が覚めるかと思ったがその気配は全くない……。
夢の中で寝てもまた夢の中で起きるなんて、今まで経験したことがない。
……これは本当に気を付けた方が良いかもしれないな。
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