怠慢
協力を取り付けて酒場出たときには日は落ちていたので、今日はこの町の宿屋に泊まることにした。
流石に暗い夜にダンジョンである火山の洞窟に向かうのは危険だろう。グリドとは翌日に町の出入口で合流する約束をして一度別れ、酒場の近くにあった宿屋に入った。
ちなみにグリドは宿屋ではなく、借家に住んでいるらしい。俺たちみたいな数日だけ泊まるなら宿屋を使う方が良いが、長期間滞在するなら部屋を借りた方が安上がりだとかなんとか。
町の宿は現代人の俺たちからしたらあまり快適な場所に見えなかったが、ここ以外に宿屋は見つからなかった。もっと町中を念入りに探せば他にもあったかもしれないが、ここに来るまでに長距離を歩いたせいか疲れており、見つけた宿に泊まることにした。
この宿屋は食事を提供する飲食店も併設しているらしく、ついでに夕飯を取ることになり、店員に注文をして千歳とテーブルに座る。
「ねえ、本当に大丈夫なの?」
千歳が漠然とした質問をしてきた。
「大丈夫って何に対して?心当たりが多すぎてどれのことを言っているのか分からないんだが」
運ばれてきた食事はパンと野菜スープ、そして焼いた鳥肉だ。
パンは日本で食べてきたものと全く違い硬くて酸味があり、あまり美味しいとは言えず噛み千切るのに苦労する。
野菜スープと肉は塩味が効いていて全体的に味が濃い。これは汗をよく流す肉体労働者が多い町だからだろうか?
鳥肉は――何の鳥類だろう?鶏っぽいような、そうでないような……。食べられない種類ではないだろうが、判別がつかない。
……この世界に来てまだ一日も経ってないが、もう白米が食べたくなってきたな。
「色々だけど、今はペンギンのことだよ」
千歳は頭痛でもしているのか、頭を手で抑える。
「斧持ってたけど、ペンギンに戦えるイメージとかないんだけど?他の人探した方がよくない?」
「た、多分大丈夫だ。評判を聞く限り強いって噂だし」
「……水族館のマスコットより強そうな人なんて沢山いるけど?」
千歳は周囲を見渡す。
テーブルを囲んでいる人たちは、鉱山労働が主なためか男女ともにガタイが良い。例えるならガテン系で、ペンギンよりも圧倒的に強そうではある。
「というかさー、お城で会った人たちもそうだけどこの世界なんかおかしくない?ずれてるというか不気味というか……。なんか得体の知れない怖さを感じるよ」
「そ、そうだな。俺も同意見だ」
「もしかしてこれも魔王の仕業なのかな…」
千歳が深刻そうな顔をしているが、それは違います。
元凶は適当に作った俺のせいです。
「魔王が原因なら早くなんとかしないと、もっと大変なことになるかもしれないってことだよね」
魔王への風評被害が発生している。
まあ、普通に考えたら人類に危害を加えている魔王の可能性が一番高いと思うよな。千歳なりに不可解な現象について推測しているみたいだが、残念ながらそんな筋の通ったしっかりした理由ではない。
ただの手抜きした結果である。
「いきなり無責任に倒せとか言われたけど、私たちが何とかしないといけないんだよね……」
覚悟を決めているようだが、その決意を見て申し訳なくなってくる。
ご、ごめん千歳……。俺が悪いとか普通は思わないよな……。
気まずさから視線を逸らしてしまう。
真実はいつも残酷である。
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