蛇足(3)

「俺を探していたようだが、もしかしてお前さんたちも火竜を討伐しようとしているのか?」


「はい。討伐するために協力しませんか?」


 隣にいた千歳は「ペンギンに助太刀を求めるとか正気!?」という顔で驚愕していたが、グリドは仲間になる人物であるため戦闘能力は高い。魔王討伐の助けになるはずだ。


 ――なるよな?見た目がペンギンになったことで弱くなったとかないよな?


「俺は故郷の仇だから戦うんだが、お前たちはどういった理由で挑むんだ?言っとくが奴は魔王軍の幹部で実力は本物だ。半端な覚悟じゃ死ぬだけだぞ。実際、数多くの村や町が滅ぼされたんだ」


 グリドの声は真剣だ。まあ確かに、十代半ばの少年少女がいきなり現れて協力してくれというのもおかしな話である。


 くっ、言いたくはないが言うしかないよな……。


「俺は勇者です」


 右手の甲にある黄金の紋章見せると、酒場にいた他の客が「何!?」「あの少年が勇者?」「勇者が現れたと聞いていたが、あれが」とざわつく。


 国王が御触れを出すと言っていたが、ちゃんと話は広がっているらしい。王都を出てさして時間が経ってないが、ここまで話が伝わっているのは驚きだ。電話とかないのに情報が広まっているのを考えると、何か特別な方法でも使ったのだろうか?


 ちなみに千歳は俺が言った勇者という単語を聞いて噴き出していた。


 その反応に精神的ダメージを負いつつ話を続ける。


「俺たちの目的は魔王を倒すこと。そのためには魔王軍の幹部たちが持っている神器の欠片を集める必要があります」


「火竜は魔王軍の幹部だからその欠片を持っているってことか?なるほどな」


 グリドは羽を嘴に当てる仕草をする。


 ……恐らく、人間の姿だったら顎に手を当てる仕草とかなんだと思う。


「……いいだろう。勇者なら不足はない。あのトカゲを倒すため、協力しようじゃないか」


 予想通り勇者という肩書には一定の信用があるらしい。

 文明が発達していない中世ヨーロッパ風の世界で身分証明がやり易いのはありがたい。


「聞いているとは思うが改めて名乗っておこうか。俺は『グリド』。斧使いの戦士グリドだ」


 ペンギンが椅子から飛び降り、床に足を着ける。

 そして、右手を――右の羽をこちらに差し出した。


 ……握手しようって意味で良いんだよな?


 姿はペンギンなのに人間の挙動をするため、行動の意味を読み取るのに時間が掛かってしまう。


 俺も右手を差し出し、その手を握り……いや、翼を掴む。


 その翼は固いゴムの様な感触で、紛れもないペンギン特有の翼だった。


 何とも言えない気分になりながらも、名乗り返す。


「俺は栗寺、――あ、えっと、『日月 栗寺』って言います」


 苗字を言ってから言い直す。国王がブニング・ハーティクルと名乗っていたから、現実の外国と同じ様に、名前が先で苗字を後に言うのがこの世界では正しいのだろう。


「私は『理亜 千歳』です。ま、魔法使い?らしいです」


「らしい?変な言い方だな」


 続いて千歳も挨拶するが、疑問形の言い回しにグリドが苦笑する。


 というか俺も魔法使いという自己紹介の部分で笑いそうになった。


 た、確かに、これは噴き出してしまう。


 千歳が恥ずかしそうにこちらを睨んでくるが、これはお相子だろう。千歳も勇者と聞くたびに笑ってたし。


「よろしくな、お二人さん。一緒にあのトカゲ野郎をぶちのめしてやろうじゃないか!」


 グリドはテーブルに立て掛けてあった大斧を持って肩に担ぐ。重そうな鉄の塊を持ち上げる姿は無理をしている様子がなく、力がある証拠だろう。


 頼もしい限りだ。


 ……見た目がコウテイペンギンじゃないなら完璧だったのに。

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