蛇足(1)

 気を取り直して町に足を踏み入れる。赤茶けた土の上に石材を主に使われた建物が並び、道行く人たちはいかにも炭鉱夫という格好をしたガタイが良い者が多い。確か近くに鉱山があり、炭鉱業が盛んな町という設定だったかな。


 そしてこの町にはゲームのストーリー上、重要なイベントがある。

 俺は千歳を連れてとある建物へと歩き出だした。


「まずは酒場に行こう」


「酒場?お酒飲むの?」


「違うよ。そこに火竜を倒すのを手伝ってくれそうな人がいるんだ」


「そうなの?」


「ああ、城の騎士に聞いた」


 このゲームを作ったのは俺なので、誰が魔王討伐の仲間キャラとして出てくるのかは分かっている。しかし、そのことを説明できないので、悪いけど千歳には騎士から聞いた話だと嘘をついた。


 この町の酒場には斧使いの戦士がいる。その人が旅の仲間になってくれるキャラクターだ。


 故郷を火竜に襲われ、その復讐の為に主人公たちに協力するという設定だったと思う。


 ゲームと同じなら、協力の申し出をするだけで問題なく仲間になってくれるはず。


 少し歩くと、ある看板が目に入った。泡立つ飲み物が注がれているジョッキが描いている。


 外観は他の建物と大差がないが、窓から中を覗き込むとテーブルに丸椅子が並び、バーカウンターの様な物が見える。


 内装からみてここが酒場で間違いないだろう。

 西部劇に出てきそうな木製のスイングドアを開けて入り、店の中を見渡す。


「……あれ、いないな?」


 昼間だからか、席についている人はまばらだ。


「探している人ってどんな見た目なの?」


「大きな斧を持った、三十歳前後の渋い感じの大男だけど……」


 外見の特徴が一致する人物が見当たらない。


 席に着いているのは背丈の高い男たちだが、大斧を持っている者がいなかった。


 名前は――覚えてないな……。


 まあ、この世界はゲームが元とはいえ、人がちゃんと生活している。毎日朝から晩まで酒場にいるなんてことはないだろう。


 戦士が酒場にいる理由は火竜についての情報収集とか討伐に協力してくれる仲間探しとか、そんな理由だったはずだ。


 もしかして、この店じゃなくて他の酒場にいるという可能性もあるが。


 取り敢えずカウンターに行き店員に話し掛ける。


「あの、すみません」


「はい!いらっしゃいませ!」


 話し掛けた店員の女性は笑顔で応対する。こちらの見た目完全に十代半ばなのに、嫌な顔をせずに普通に接客してくれる。それともこの世界ではアルコールの摂取に年齢制限はないのか?


 ――気にしなくてもいいか。別に酒を飲みに来たわけじゃないし。


「ここに火竜の討伐をしようとしている斧使いの戦士がいるって聞いたんですが、今日は来ていないですかね?」


「あ、それなら多分『グリド』さんのことですね!あちらにいらっしゃいますよ!」


 戦士の特徴を伝えると、店員は右手を建物の奥まった場所にあったテーブルに向ける。


 入口から見えないところに居たのかと納得したが、そこに大男の姿はなかった。


 代わりにいたのが――、


「……ペンギン?」


 嘴にヒレのような翼、ずんぐりとした白色の長い胴体に黒の頭と背中。独特の体系をしたその姿は紛うことなきペンギンだった。


 より正確に言うなら、体に黄色いラインが入っているので『コウテイペンギン』である。




 ――何故か酒場にペンギンがいた。

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