初陣(2)
盾を構えて前に出た俺に狙いを絞ったのか、ゴブリンは片足で跳ねながら近づいてくる。
「ギャギャッ!」
まるでバレエダンサーのように片足を軸にして体を回転させて棍棒を振りかぶる。
なんだその戦い方!?普通に振れよ!
困惑しながらも、棍棒を左腕のラウンドシールドで防ぐ。
棍棒と盾がぶつかり腕に衝撃が走る。結構な勢いで棍棒が当たったはずだが、予想よりも腕にきた反動は軽かった。
勇者とその仲間には加護が授けられると国王が言っていたが、ちゃんと効力を発揮しているようだ。
「これならいけるか!」
しかし、敵と接近して気が付いたのだが、ゴブリンの目玉が左右でぐるぐると逆方向に回転していた。
怖っ!本当になんなんだ!?
早く終わらせてしまおうと、棍棒を弾かれて体制を崩したゴブリンのような何かにブロードソードを振り下ろす。
もしかしたら骨の様な固い部分で止まるかと思ったが、剣は途中で止まるどころかそのまま容易く切り裂いた。
「ギャア!?」
ゴブリンが断末魔を上げて地面に倒れる。
切られた断面から血は出ずに、代わりに黒い煙が巻き上がる。
そのまま全身が黒い霧へと変わり、風に吹かれて直ぐに消えていった。
「…………や、やったか?」
剣を構えてしばらく消えた場所を警戒していたが、何かが起こる気配はなく本当に終わったようだった。
ゴブリンが倒れた跡には、黒い宝石の様な小石が落ちていた。
これは魔石と呼ばれ、町の役場や店で買い取りをしている。この世界では火を起こすときなどに使われ、燃料とかになるらしい。これを売って旅の資金を得るのがゲームの流れだったはずだ。
王国からは当面の活動資金は受け取ってはいるが、魔王討伐までの長期間を賄える額ではない。冒険が終わるまでどれくらいの日数が掛かるか分からないため、魔物を倒してお金を稼ぐ必要がある。
そう思うと、やっぱりゲームの主人公たちって結構理不尽な扱いだよなぁ……。
「お、おぉ~。お疲れ栗寺くん。やったね!」
「ああ、何とかなったな」
安堵した様子で千歳が駆け寄ってくる。
序盤で出てくる敵らしく一振りで倒すことができ、魔物との初戦闘は怪我をすることなく終わった。この先も何事もなく進んで欲しいものである。
「普通に使えてるように見えたけど、もしかして剣を振ったことある?」
「いや、西洋剣なんて握ったの初めてだよ」
剣を腰に下げている鞘に収める。
しかし、なんだこのゴブリン?
何でこんな変な動きを――。
………いや、待て。
そう言えばゲームに出てくるキャラクターのモーションって一から作るのはかなり大変だから、動きの素材がないデータはかなり適当に作った記憶がある。
ゲーム制作において、違和感のない自然な動きを登場人物にさせる場合、人の動きなどカメラで撮影してトレースし、ゲームに反映させるという作業がある。
もちろん俺はそんな機材は持ってないし、仮にあったとしてもモーションをゲーム内に再現させるスキルもない。
恐らくだがこのゴブリンはモーション素材が見当たらなかったか、もしくは探すのが面倒だったから適当なモーションを作って当て嵌めてしまったんだろう。
明らかに生物としておかしい動きをしていたからな。
……すまない、ゴブリン…………。こんな形で世界に生み落としてしまって……。
もしかして、俺はこの世界の多くの住人に謝らなければいけないのではないだろうか。
………この先もこんな変なのばっかりじゃないだろうな?
本当に頼むぞ過去の俺!
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