初陣(1)

 その後、旅に必要なものを城下町で急いで買い集めて直ぐに王都を出る。


 城にいた人たちは今日くらいはゆっくり休んだ方がいいのでは?と気遣ってくれたが、早く行動したいのでその日中に出発することにした。


 最初に相手する魔王軍の幹部は『火山の洞窟』という場所に潜んでいる。王都からそこまで距離がある訳ではないので、火山近くにある町を目指して街道を歩いて行く。


 元の世界では部活帰りだったので時刻は夕方だったはずだが、謁見の間で目を覚ましたときはこの世界は朝だったらしい。歩いて行ける距離なので時間は大丈夫なはずだ。


 しかし、街道と言っても舗装されている訳でもなく、人の往来によって草が生えていないだけの道である。


 おまけに食料や道具など旅に必要なものを詰めた鞄を持っている。俺も千歳もスポーツ系の部活をやっているから体力に自信はあるが、長時間歩くのは中々に辛そうだ。


 一応、王都から馬車が出ているらしいが、モンスターがどれくらいの強さなのかを見ておきたかった。最初の町へ行く道中に出てくるモンスターはかなり弱く設定しているはずなので、試しで戦うのなら丁度いい。


 それに魔法の使い方も知っておきたかったというのもある。王城では魔法をイメージして名前を叫べば問題なく発動すると騎士に説明されたが、魔法なんて初めて使うから感覚が良く分からない。魔王軍の幹部と戦う前に確認しておいた方が良いだろう。


 ――王都から歩き出して約三十分くらい経った頃だった。


 見渡す限りに草原が広がり、所々に木が生えているくらいで、人工物がほとんどない街道に何かが現れた。


「な、なにあれ……?」


 千歳が驚きの声を上げて指を差す。

 指差した先には緑色の肌に粗末な布切れを体に巻き付け、木製の棍棒を持った小人がいた。


『ゴブリン』だ。


 多くのゲームで序盤のモンスターとして登場するように、この自作ゲームでも弱いモンスターとして登場する。


「ギャッギャッ!」


「…え?」


 しかし、そいつは何故か片方の足を空に向かってピンと伸ばし、もう片方の足でケンケンをするように跳びながらこちらに近づいてくる。


「ギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャ」


 ゴブリンのような何かが涎を垂らして奇声を上げる。ヘドバンでもしているかのように頭をがくがくと左右に激しく振りながら体を痙攣させていた。


「え?え!?なにコイツ!?ゴブリンだよな!?」


 なんというか、とても動きが気持ち悪い!


 アクションゲームじゃなくて、ホラーゲームに出てきそうな変な動きをしている!?


 慌てて荷物を地面に置いて、鞘から剣を引き抜く。

 千歳も両手で杖を持って構えた。


「ギャアアアー!」


 片足で跳ね回りながら襲い掛かってきた。


「きもちわるっ!」


 千歳はあまりに異様な動きに対して、命を懸けた戦いから来る恐怖ではなく、生理的な嫌悪感から顔が青ざめていた。


 俺も予想外の光景に顔が引き攣っている自覚がある。


「と、取り敢えず俺が戦ってみるから下がっていてくれ!」


「わ、分かった!」

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