悪夢の始まり(8)

「いや、待て……褒美?」


 薄れていた記憶が、騎士の褒美という言葉を聞いて思い起こされる。


 ……確か、このゲームのエンディングは『国王からの褒美を受け取らずに、勇者は故郷に帰っていった』という感じじゃなかったか?


 エンディングの細かい部分は思い出せなかったが、そこだけは間違いないはずだ。


 もしかして魔王を倒してエンディングを迎えれば元の世界に帰れるんじゃないか!?


 ……希望が見えてきた!


 しかし、千歳にゲームのエンディング云々とか説明できない。


 俺は頭をフル回転させて言い訳を考える。千歳を納得させるには何て言えばいい…!?


「……確か、魔王って魔法の扱いに秀でているんですよね?」


 先程の解説にもあった魔王の話を騎士に振る。


「ええ、『魔導神』なんて二つ名を持っている程ですね。過去に現れた際は強力な魔法を幾つも使っていたと記録があります」


「その魔王が別の世界に行く魔法を知っている可能性はありませんか?」


「え?ど、どうでしょうか?」


「可能性はありますよね!?」


 テーブルに手を叩きつけるようにして椅子から立ち上がった。

 俺の剣幕に若干騎士が引きつつ答える。


「ま、まあ、無くはないですね。魔王は見たこともない術を行使できると聞いております。しかし、魔王が我々人類に協力するとは思え――」


「千歳!!可能性はあるらしいぞ!!」


 騎士の声を掻き消すように声を張り上げる。


「帰る方法あるの……?」


 俯いていた千歳が顔を上げて俺に視線を向ける。


「ああ!こうなったら魔王を殴り倒して帰る方法を聞き出してやろうぜ!」


 騎士の言う通り魔王が協力してくれる可能性は低いというかもはや零に近いだろうが、エンディングの方には希望がある。エンディングが変わってなければ帰れるはずだ。


「でも魔王なんて倒せるかな?すごく強いんでしょ?私、喧嘩なんて全くしたことないんだけど……」


 千歳が不安そうに呟く。


 何で自作ゲームの世界に放り込まれたのかは知らないが、制作者の俺が無関係ということはないだろう。心当たりは全く無いが、何かしらの原因が俺にあるのかもしれない。


 だから、彼女の無事に返す責任がある。


「大丈夫だ。何があっても俺が絶対に千歳を守るから」


「え?そ、そう?」


「ああ、俺の命に変えても。だから安心しろ」


 千歳を安心させるために微笑む。


 俺も命のやり取りをした経験なんて無いが、根拠はある。


 この世界のストーリー作ったのは俺だ。ゲームの流れや攻略の知識はある。


 記憶を総動員すれば魔王だって討伐することができるはず!


「う、うん……。ありがと……」


 千歳は緊張が和らいだのか、ほっとしたように声を漏らす。


 勢いだけで押し切った形だが、不安に押し潰されそうになっているよりかは良いだろう。



 なんとしてもこのゲームをクリアして、元の世界に帰るんだ!!

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