悪夢の始まり(6)


 こそこそと話していると、別の騎士が部屋に入ってきた。


「失礼します。勇者様、地図をお持ちしましたので、魔王軍の幹部の居場所などについてお話ししたいのですが」


「え!?そ、それはいいんですが……」


 俺は驚いて思わず入ってきた人物を凝視してしまう。


「どうされました?」


 俺の視線に気付き、入室した騎士が不思議そうにしている。


 部屋に入ってきた騎士は中肉中背で茶色の短髪にそばかすがある若い男性――猫を抱えている騎士と見た目が瓜二だった。


 それどころか、声まで一緒で、身長や体格、髪型までそっくりで双子にしか見えない。


「も、もしかして、お二人はご兄弟ですか?」


 あまりに似た外見なので兄弟なのかと思い質問してみた。


「兄弟?いえ、違いますよ」


「違うんですか!?」


 その見た目で!?

 交互に見比べても違いが見つからない。


「兄弟かなんて初めて聞かれましたよ」


「そんなに似てますかね?」


 二人して苦笑しているが、その仕草もまったく一緒だった。むしろ血の繋がりが全くないということが驚きである。


 驚愕して固まっていると、エプロンを着た使用人――メイドらしき人がサービスワゴンを押して部屋に入って来た。


「失礼します。お飲み物をお持ちしました」


「…え?」


 新たに入ってきた人物を見て更に驚いてしまう。


 その人も二人の騎士と見た目がそっくりの茶色の短い髪をしたそばかすがある若い人――というか、明らかに男性の顔つきをしているのにエプロンドレスという女性の使用人の格好をしていた。


 いや、もしかしたらこの国では男性でも使用人はその服を着るのが普通という可能性もあるか…?


 ……それにしても、どうして三人共同じ顔をしているんだ?


「……あ、あの兄弟じゃないなら親戚ですか?そちらの人まで顔が似ていますが?」


「いえ、違いますよ。兄弟でも親戚でもないです」


 親戚でもないのか!?


「ど、どいうこと?私も皆、同じ顔に見えるんだけど……」


 千歳も困惑した様子で聞いてくる。

 やはり俺と同じく異常な光景に見えるらしい。


「…………あっ」


 そこで、思い出してしまった。


 このゲームは小学生時代に作ったものだ。それまで俺はゲーム制作なんてやったことがなく、後にも先にも作ったのはこのゲームだけである。


 当たり前だが、ゲームの完成度はかなり低く、NPC一人一人の作り込みだって甘い。


 フリー素材のデータをダウンロードし、サンプルゲームに手を加えた程度のレベルだ。


 その中には同じ素材を使い回して水増ししたキャラもいたはずだ。


 そう、この三人のように――。


「勇者様?」


「魔法使い殿?」


「どうされました?」


「お顔が悪いようですが?」


「具合が悪いのですか?」


「医者を呼びましょうか?」


 三人が全く同じ顔で。


 全く同じ声で。


 完全に同じ仕草で。


 順番に話し掛けてくる。


 ………………軽くホラーだった。


「……だ、大丈夫です…………」


 全然大丈夫ではなかったが、声を絞り出す。


 三人が同じ顔をしているのは間違いなく俺のせいだった。


 手抜きしてんじゃねぇよ過去の俺!納期も何もないのに!


 いや、自作ゲームが反映された世界に放り込まれるなんて、微塵も考えたこともなかったけどさ!!


「にゃあ」


 騎士の腕に抱かれていた奇妙な猫が鳴く。


 もしかして、この猫もテクスチャの設定ミスをしたせいでこんな見た目になっているのでは……?


 その可能性が高いな……。

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