悪夢の始まり(4)

 千歳への説明が終わったのか、ブニング王が俺に視線を戻す。


「魔王を倒すため、まずは勇者たちにとある神器の欠片を集めてもらいたい」

 ああ、ありましたね。そんな設定。


 当然だが千歳は詳しいことは知らないので、不思議そうな顔をしていた。


「神器?」


「うむ。その神器は魔王が潜む浮遊城の障壁を破る為に必要なのだが、今は魔王の配下に奪われて大陸中に散らばっておってな。それを集めてもらいたいのだ」


 ブニング王の説明に付け加えれば、神器は三つに砕かれていて魔王軍の幹部という名の中ボスたちが見張っている。ストーリーが改変されてなければ、確かそんな設定だったはずだ。


「欠片を全て取り戻せば、王都の神殿にて伝説の神器を復元することができる。しかし、それらがなければ魔王の元へ辿り着くことすらできんのだ」


 端的にまとめれば、キーアイテムを集めてラスボスに挑むといった流れである。


 まあ、ストーリーとしてはよくある話にしていた。複雑な物語を作れるほど創作に明るくないからな。


「魔王は人類を滅ぼそうとしている。絶対に止めなければならん。我らは神器の復元の準備を整えておく。勇者たちは魔王軍の幹部を倒し、欠片を取り戻して欲しいのだ」


 随分と簡単に言ってくれますねぇ……。


 俺たちはただの高校生である。戦争なんて経験がない。せいぜいちょっとした喧嘩や学校の授業で柔道なんかの軽い手解きを受けただけである。


 もし、この世界の戦いで命を落としてしまったらどうなるのだろうか?


 ……夢だとは思うが、こうも意識がはっきりしていると現実なんじゃないかと疑いたくなる。


「王国の騎士や兵士は助けてくれないのですか?」


 俺の質問に国王は渋い顔をする。


「力を貸してやりたいが、魔王軍の幹部たちは強く、まったく歯が立たなくてな。何度か軍隊を送ったが全て返り討ちに遭ってしまった。あまり助けにはならないだろう。それに……」


 ブニング王が俺の右手に目を向ける。


「その勇者の紋章は戦いの加護を授け、魔の者と戦うとき勇者とその仲間に大いなる力が宿ると言われている。しかし、予言では選ばれし四人しか力を得られないとのことだ」


 …………そんな設定あったっけ?


 駄目だ……。自分で作った話だが、何年も前のことだから細かいところまで思い出せない。


「各地で幹部以外の魔族共と小競り合いも発生しているからな。これ以上、兵や戦力を失う訳にはいかんのだ」


 一応聞いてはみたものの、誰もついて来てはくれないようだ。

 まあ、元々のゲームのストーリーも勇者一行だけで冒険するという内容だったし、さして期待はしていなかったが。


「戦力は出せないが、町や村には勇者に協力するよう王命を出しておくから、困ったことがあれば役人や兵士たちに相談してくれ」


 勇者たちが活躍するよくあるストーリーだとは思うが、たった数人で敵の幹部や魔王を倒せとか、実際にやる立場になると理不尽に感じるな。


 ……ストーリー作ったの俺だけど…………。

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