悪夢の始まり(3)

 かなり前に動画投稿サイトに『初めてのゲーム制作』というものを見かけ、興味本位で再生したことがあった。


 その動画には無料で使えるゲーム制作エンジンやゲームの素材集――プリセットを紹介しており、この動画に沿って作れば知識が全くない小学生でもゲームを作れるという内容だった。


 サンプルゲームに素材を付け加えて編集するといった感じなので、オリジナル要素は全く無かったが、無料かつスキルが無いのにゲームが作れるんだと感動した覚えがある。


 その時の自分も動画に沿ってゲームを作った。今思い返すとかなり適当な作りだったと思うが、当時はゲーム制作に触れられて楽しかった。


 ストーリーは勇者が冒険して魔王を倒すといったシンプルな内容だ。


 王道ファンタジーのアクションRPGだったが、そのゲームの舞台が『ハーティクル王国』で、国王の名前が『ブニング王』という設定にしたはずだ。


 俺のときと同様に、国王たちが困惑している千歳に状況を説明している。その様子を横目に、必死に頭を動かして記憶を掘り起こす。


 そして、嫌な予想に辿り着き、一気に冷や汗が噴き出してくる。


 …………どうしてそうなっているのかは分からないが、まさかここ、自作ゲームが反映された世界じゃないよな……?


 細かいところまでは思い出せない。だが、自作したゲームの設定に非常に酷似している。


 う、嘘だろ……。なんで、よりにもよって自作ゲームなんだよ……。


 もっと他になんかあっただろ!?


 自分が作ったゲームを忠実に再現した世界に、気になっている女子と追体験させられるとか精神的処刑では……?


 なんというか、過去に作った拙い読書感想文を他人に読まれたときの感覚に似ている……。


 その千歳だが、確かゲーム素材の中に千歳と似た外見の魔法使いのキャラクターデータがあり、特に深く考えずメインキャラに設定してしまったことを思い出した。


 …何やってんだ過去の俺……。千歳に土下座して謝ったほうがいいのでは……?


 ――い、いやこれはただの夢だ……。

 やけに意識が鮮明だが夢のはずだ!そうに違いない!


「勇者よ」


「―――え?あ、はい」


 内心で頭を抱えて遠い目をしていると、千歳への説明が終わったのか国王が話し掛けてくる。勇者とか慣れない呼び名で言われると、自分のことだと直ぐに認識できない。


「ゆ、ゆうしゃ…。栗寺くんがゆうしゃっ…!」


 千歳が口を抑えて笑いを堪えている。


 ……うん、笑われても仕方ない程似合ってないだろう。というか勇者が似合う人間なんて世界中探してもまずいない。自分は勇者が似合うとか豪語する奴がリアルにいたら狂人の類だ。


 それにしても、夢のはずだが千歳の仕草も現実にそっくりだな……。


 まさか、本当に現実じゃないよな……?


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