悪夢の始まり(2)

「大丈夫か千歳!?しっかりしろ!」


 慌てて彼女を揺り起こそうとすると、彼女の口から呻き声が漏れる。


「う……、う~ん……。おかあさん……三十分だけ……ねかせて……」


「起きろ!俺はお母さんじゃないし三十分も寝てたら遅刻するぞ!」


「一時間でいいから……」


「延びてるし……。いいから起きろ!」


 彼女の寝言を無視して揺すり続けていると、瞼がゆっくりと開く。

 最初は宙を彷徨っていた視線が俺を捉えた。


「……栗寺くん?」


 寝ぼけた顔で俺に目を向ける。


「大丈夫か?意識はしっかりしているか?どこか痛いところはないか?」


 俺は矢継ぎ早に彼女に容体を確認する。ぱっと見て怪我をしている様子はないが、彼女も階段から落ちたはずだ。


 もしかしたら服の下は大変なことになっているかもしれない。


「え、何で?え?」


 千歳は徐々に意識が戻ってきたのか、慌てて起き上がり周りを見渡すと、状況が読み込めないのか困惑していた。


「ここどこ?……何でこんな格好してるの!?」


 そして、自分の服装を見ると更に慌て出す。彼女もどうしてそんな格好をしているのか分からないらしい。


「……お知り合いのようですが、貴女は魔法使いではないのか?」


「魔法使い!?私が!?なんで!?」


 見かねた老婆が千歳に声を掛ける。当たり前だが、心当たりはないようだった。


 しかし――。


「……千歳が魔法使い?」


 俺はその格好を見て、再び妙な引っ掛かりを覚えた。


 慌てふためく彼女を眺める。黒いとんがり帽子に長いローブといういかにもなファンタジーの魔法使い。千歳がそんな格好しているところを見たことはないはずなのに、どうしてか既視感がある。


「ハーティクル王国……。ブニング王……。そして、コスプレした千歳……」


「好きでこんな格好してる訳じゃないよ!?というか栗寺くんも変な格好してるし!」


 そして、ふと気が付く。


「…………あ」


 思い当ってしまった。先程からの妙な既視感に。




 これ、小学生のときに作ったゲームの設定じゃないか…………?

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