崩壊当日(2)

 部活が終わって下校途中の帰り道。日が暮れて来て綺麗な夕焼けの中、見覚えのある亜麻色の髪の少女が遠くに見えた。


 歩道橋の階段を登っている千歳の後ろ姿だった。


 その姿を見て、今日の雄馬との会話が脳裏をよぎる。


「他のやつに取られる、か……」


 確かに、彼女は可愛い笑顔の似合う少女でクラスでも取っつき易いと人気だ。

 他の男子も放っておかないだろう。


 ……勇気を出して距離を縮めてみようか。


 少し早足で歩道橋まで近づき、「千歳」と名前を呼んだ瞬間だった。


 彼女が名前を呼ばれてこちらに顔を向けようと振り向き掛けた時に、突風にも似た強い風が吹く。


 歩道橋の反対側から来て階段を駆け降りようとしていた、小学生くらいの少女が風に煽られて足を踏み外した。


「危ない!」


 千歳が気が付いて少女を受け止めようとしたが、後ろに振り向こうとしていて体勢が悪かった。支えることができず、少女と一緒に階段から転げ落ちようとしている。


「きゃっ!!」

「なっ!?」


 このままだと歩道橋の階段から落ちて道路に叩き付けられてしまう。


 俺は落ちてくる二人を慌てて受け止めようとして急いで駆け上がる。


 腕を伸ばし、二人が体を打ち付ける前に何とか間に合うかと思った時、強風で煽られたのか俺の足元に白いビニール袋が飛んで来た。


「え!?」


 何でこのタイミングで!?運悪すぎだろ!?


「ぐっ!」

「え!?栗寺く――」


 ビニール袋を踏みつけてしまい足を滑す。落ちて来た二人を受け止めきることができず、俺まで階段から踏み外してしまった。


 今バランスを崩してしまったら、千歳と少女を地面に投げ出してしまう!


 無理矢理空中で体を捻って道路に着地しようとする。


「うおおおおおお!」


 だが、ちょうど足を着けようとした場所に、さっきの強風のせいか今度は酒瓶が転がって来た。


「ちょ!?ふざけんな!!」


 俺はその瓶を踏み抜いてしまい、体勢が悪かったせいかアスファルトに勢い良く倒れ込んでしまう。


 固い地面に体を打ち付け、背中と後頭部に強い衝撃が走る。


「がっ!?」


 頭を打ったせいか視界が黒く染まり、徐々に意識が遠のいていく。


 体に力が入らなくなり、思う様に呼吸ができなくなる中、最後に泣きそうな小学生の少女の顔が見えた。

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