崩壊当日(1)

 とある秋の日。


 セミの鳴き声が響き渡る夏が終わり、日が落ちるのが早まり始めた頃だった。

 高校の授業が終わり、俺は部活に勤しんでいた。


「ようやく涼しくなってきたな。この季節が一番過ごしやすい」


「秋はあっという間に過ぎてしまうのが惜しいよな。過ごしやすい温度だからスポーツにやるのに向いているし」


 俺と友人は学校の外周を体力作りという名目の練習で走らされていた。

 息が上がるような全力ではないが、注意はされないよう程々に速度を出して高校の敷地の周囲を周っている。


「外周が走り終わったらボール拾いだっけ?」


「ああ。一年の扱いは結構悪いよな」


「中学のときの部活もそうだったよなあ。もっとコート使わせて欲しい」


 同じテニス部の友人の『近藤 雄馬』と喋りながら学校の外周を走っているときだった。


「あ……」


 ふと同じクラスの千歳を見かける。


「どした?――ああ、なるほど」


 自然と彼女に目線が行き、それに気が付いた雄馬が微妙に腹立つ訳知り顔になった。


 千歳は俺が小学生のときからの友達で、活発的で明るい雰囲気の少女だ。

 彼女も俺と同じくテニス部に所属しているスポーツ仲間で、そこからよく話すようになった。一緒に行動する時間が多くなり、いつの間にか目で追うことが増え、高校生になったとき彼女のことが好きなのだと自覚した。


 俺が見ていたのに千歳が気が付いたのか、小さく手を振ってくる。

 俺も控え目に手を振り返した。


「おいおい!あれは向こうも気があるんじゃないか!?手を振ってくるなんて両想いだろ!」


 雄馬が興奮しながら捲し立ててくる。

 しかし、小学生時代からの交友がある俺の見立てでは違う。


「残念だけどそこまでじゃない。仲が良いとは思ってくれてるだろうけどね」


「友達以上恋人未満って感じ?」


「まあ、多分そんな感じ」


 普段から彼女と喋っているから分かる。意識されていない訳ではないだろうが、凄く意識されているかと言われれば微妙といった感じである。


「なるほどなぁ。けど、千歳さんって男子から人気あるぞ。早めにアプローチ掛けとかないと他のやつに取られるかもよ」


 雄馬が俺の肩に腕を回して煽ってくる。お調子者の性格をした雄馬はこういう時はとても面倒臭い。


「う、うっさいな。離せよ、暑苦しい」


 ニヤニヤした顔が非常に鬱陶しい。回された雄馬の腕を振り解こうとする。


 そんなこと言われなくても、自分が一番良く分かってるっての……。

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