Side2

今度の学校生活はしっかりと通うと決めていたのに。


そう後悔するのも今日で二日目だ。

きっかけは悪夢だった。3年前に起こった出来事を思い出す悪夢。当時の私はそこに耐えきることはできなかった。悪夢を見たことで寝坊してしまった。寝坊してしまっただけであるならまだ遅刻して向かえばよかった。しかし体は言うことを聞いてくれはしなかった。とてつもない倦怠感に襲われベッドから動くことはできなかった。

夕方になりだいぶ気持ちも晴れてきたところで、この空白の3年間に仲良くしてくれている数少ない友達から届いたライン。呑みの誘いであった。

ここのところしっかりと高校に通うようになってからは一緒に呑みに行く機会は減っていた。健康的な生活のたまものである。

久しぶりにという気持ちと、今朝の鬱な感情も相まって行くことにした。


着いた場所は日本有数の繁華街、歌舞伎町。

この友達はいわゆる悪友。名前はカナ。カナと知り合ったのは2年半くらい前に歌舞伎町にあるバーであった。深夜夜通しテキーラ飲み放題みたいなところ。その日カナは、何か仕事のストレスなのかよくわからないがいわゆるヤケ酒をしていた。彼女の正体は実はいまだによく知らない。しかし、この時に意気投合して以来度々カナとはよく酒を飲みに行くようになった。また、カナはいろいろな夜遊びを知っていた。ホストやメン地下などなど。どれもたまに行くようだが深追いはしないらしい。そのうちに私はカナがいなくても様々なところに赴くようになった。若い子だと小中学生から酒を飲んだり援交をしたりしているような街だ。18や19のあたしが呑みの場にいたところで咎めるような人なんていなかった。

しかし流れが変わったのは年明けのころだっただろうか。お互いに深い自己紹介などはしないままに遊んでいた関係だったカナと私だが、ひょんなことからカナは私の年齢を知ることになる。カナはこんな町で呑んだり日々しているタイプではあるが、思いのほか常識人であったようで、強く咎めることはなかったが優しく復学なんかを進めてくれるようになった。このタイミングで常識人なあたりが見えるなど、私はカナの素性は未だによく知らない。


他にも理由はあったがほどなくして丁度4月の新しい学年になるタイミングで再び学校に通いだした。


以前まで最低週1回くらいは会っていたカナと会うのは今回1か月ぶりであった。今回は最近の近況報告から始まり最近の話題など様々な話をした。最近見つけたおいしいお酒の話とかね。

久しぶりに終電を過ぎたが、明日こそは学校に行くつもりになったのでタクシーを使い何とか家に帰る。しかし起きたのは11時であった。終わりである。


絶望感に浸りながら朝食という名の昼食をとっているときのことだった。携帯にラインの通知が2件立て続けに来る。


『3日目だけど大丈夫?』

『机にプリントたまってるけど必要だったら写真とか送ろうか?』


正直今日も学校をさぼる気持ちになっていた。それと同時にこのまままた学校の人と話さなくなることに今度こそ学校には行けなくなるのではないかという危機感、罪悪感、それらの感情を心にしまいながら。

昨日久しぶりにカナと喋ったことで改めて感じたことがある。さみしいのだ。

喋りたい。そんな気持ちに押され気づいたら返信をしていた。


『今日の放課後、家に来ない?』


しかし勢いで返したメッセージの内容に異性の高校生相手に何を送っているんだとすぐに公開するがすぐに既読がついてしまい、送信取り消しもしにくくなってしまい、苦し紛れに


『全然暇だったらで、霞屋くんがよければなんだけど、』

『あ、プリントとかも一緒に持ってきてくれると嬉しいかも』


と付け足す。

しかしながら回答は残念なことに部活で来れないというものであった。


朝食を食べ一息し、タバコに火をつける。

ここで気付く。“残念”と思っていることに。

あくまで誰かと喋れるというところに期待したのだ。他意はない。


そうこう考えていると心はもやもやとしてくる。特に今日人と対面する予定もなくなってしまい、今日はいろいろとどーでもいいの気持ちが強くなってしまい、グラスに氷を入れ、ウイスキーを注ぐ。タバコにはとても合う。

立派に酒クズかもしれないな、という気持ちが一瞬わいてきたが、胸の奥にしまう。


こないだ二人でカフェに寄ったときにも霞屋くんには何か安心できるものを感じた気がした。それがどういう気持ちなのかはわからない。しかしさっき確かに残念と思ってしまったのだ。


そうこうしているとまたもラインの通知が鳴る。


『部活なくなったから行けるわ』


このメッセージを見た時、言葉では表せない感情になった。思い当たる節は様々にある。


気を使わせてしまった申し訳なさ。

ゴリゴリ酒を飲んでしまったのに人と会うことになってしまった焦り。

部屋がタバコ臭くないかの心配。


ときめきも感じたのだろうか。とりあえず返事の連絡をしたが既読はつかない。とりあえず瀬戸にこれから霞屋くんが私のプリントを取りに来る旨をラインする。


瀬戸は“3回目”の私の担任だ。いろいろあったこともあり、ラインを持っている。


慌てて少し部屋を整えたり、身支度をしているうちにそろそろ彼がやってくるだろうかという時間になった。

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