第5話 欠席と空白

2年生になってからは、席が近いこともあり来生さんと話していることがとても多いと思う。そもそも新学期が始まってまだひと月と経っていないが、ここ数日来生さんと話していることが多いことを実感することになった。

それもそう、ここ数日来生さんが欠席しているのだ。別に他にしゃべる人がいない寂しい学生というわけではないので別にいきなりぼっちになるということもない。それこそ悠馬なんかと昼休みには騒いでいる。しかし、悠馬の苗字は「渡」なので出席番号順に並べられた今の席順では近いわけもなく、授業中にしゃべるとかの機会はない。問題の答えなどを比べていた相手がいなくなったことで、最近の生活の中に増えた新しい一人の女子の存在を再認識することとなったのだ。


「今週の課題の問3解けたか?」

「俊樹が解けない問題を俺に聞くなよ。解けてるわけないだろ。」

解けないことを当たり前のように語っている友達はこの昼休みに今日も一緒に飯を食べる悠馬である。

今週の数学の課題は難しく、自分では答えに自信を持てていないので5時間目の数学の授業の前に確認して答え合わせでもしようかと思ったのだが、相談する相手を間違えたようだ。

「そうか、愛しの来生さんが学校に来ないから聞いてきたのか。俺に課題の内容なんて聞いてくるなんて珍しいと思ったぜ。」

気になる一言が頭についていたので問い詰める。

「なんだよ「愛し」って。」

「だって、お前最近来生さんといつも一緒にしゃべっていたじゃないか。始業式の日に気にしてた女子ってのも結局来生さんだったっぽいし、てっきりひとめぼれの相手かと。」

「そんな相手じゃねえよ。」

上手い返しができなかったが決してそんな相手ではない。ではないと信じている。



放課後、授業で出た課題のノートをクラス全体分回収して教科の担当の先生のところに持っていくという、いかにも学級委員の雑用といった仕事が待っていた。

提出してくれた人数分のノートを持って職員室へ向かい担当の先生に提出した後、担任の瀬戸先生に捕まった。

「霞屋、ちょっと待ってくれ。お前の相棒のことなんだが。」

相棒?って誰だ?自分に「右京さん!」なんて声をかけてくる人に覚えは残念ながらない。

「相棒…?」

「あぁ、察しの悪い奴だなぁ、来生のことだよ」

あぁ、学級委員の相棒のことね。ややこしい聞き方をしてくるもんだと思う。そんなことを感じながらも黙っていると瀬戸先生は話を続ける。

「霞屋から見て、来生に今のところなんか気になっているところとか、悩みとかないか?」

突然そんなことを聞いてきた。新学期始まってからのクラスの進行からしてあまり自分のクラスに介入したり、関心の薄いタイプの担任だと思っていたが、しっかりと担任として生徒のことは気にしているんだという、当然なはずなのに意外に思えてしまう先生の一面に気づく。

「いや、特にないですね。学級委員の仕事もいい感じに分担できてますし。」

「そうか。」

まったく気になることがないわけではない。先日放課後に二人で駅前のカフェに寄った時の話だと、クラスの人、特に女子なんかとはまだ打ち解け切れてなさそうな感じもするのと、家の話をしたときに少し遠くを見るような、寂しい目をした気がしたこと。でも確信できるようなものでもなく、わざわざ先生に伝えるほどなのかも少し疑問だったのでここでは現段階で触れる内容でもないだろう。そう思ったのだ。


「来生は結構霞屋のことを信頼を置いてるみたいだから、まぁ少し気にとめておいてやってくれると嬉しい。」

「来生さんって転校生でしたよね。なんか先生とはもう親しいですね。」

「お、おぅ、まぁな。」

何か含みのある返事に少し気になったが、問い詰めるようなことでもなかったのでそのまま立ち去る。


翌日また来生さんの席には受け取り手のいない授業プリントがたくさん積まれている。3日目なのでかなりの量が机の中にたまっている。体調が悪かったりするなら3日目となると相当良くないのだろうかとも思った。はじめはあまり干渉しても、という気持ちがあって連絡はしなかったが、さすがに心配の気持ちが勝ってきたのでラインのメッセージを送ることにした。

『3日目だけど大丈夫?』

『机にプリントたまってるけど必要だったら写真とか送ろうか?』

ふたつ目のメッセージは最初余計な一言かと思ったが、真面目な来生さんのことなので、授業の進度なんかも気にしているかもしれないと思い、一応送ってみた。

午前中には未読のまま返信が来ることもなかったラインのトーク画面だが、お昼過ぎにラインのメッセージが来たことを知らせる通知のバナーが表示された。



『今日の放課後、家に来ない?』


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