第4話 カフェ

適当なことをしゃべったりしながら駅に向かって二人で歩いていくと駅の前まで来た。

来生さんがカフェに入っていくのに合わせて俺も一緒に入る。てっきり駅前にあるスタバやどこかのファミレスなんかに入るものだと思っていたら、駅を少し通り過ぎたところにあるチェーン店ではなく、いかにも個人営業のとてもおしゃれな感じのお店に入った。彼女が空いているテーブルを見つけて座るのに合わせて俺も座ると、店員さんがお水とメニューを持ってくる。

「霞屋君は何か食べる?」

「うーん普通にコーヒーだけでいいかな。家変えると割とすぐに夕飯の時間になりそうだし」

「私はたのむねー」

「どうぞどうぞ」

楽しそうにメニューを眺めている。個人営業のカフェなので食べ物のメニューがそこまで豊富にあるわけでもなさそうだが、いい匂いもしてきてコーヒーはおいしそうである。

そうこうしているうちに彼女の方も注文するメニューが決まったようで、店員さんを呼んで2人分の注文をする。

「来生さんいろいろ頼むね」

結局彼女はケーキとサンドイッチとパンを頼んでいた。時間はもうすぐ17時という時間。この時間に小腹に入れるというには男子の俺から見ても少々多い。

「夕飯代わりにしちゃおうかなって」

「家で食べたりしないんだ」

「んー、今私一人暮らしなんだ。ごはんのタイミングは好き勝手にできるんだよね」

しまった、あまり聞いていいことではなかった。スポーツの推薦の人がいたり私立の高校とかなら寮生だったりで一人暮らしのパターンも想像がつくが、普通の県立高校では実家を離れて通う学生はそうそういないので、一人暮らしということは家庭にあまり他人が踏み込んではいけない事情があることが多いと思う。そんなふうに申し訳なさを感じていると

「あ、全然そんな家の事情とか悪い話ってわけじゃないから気にしないで大丈夫だよ。へへ」

どうやら顔に出てしまったようだ。とりあえず本人がそう言っているのでこれ以上このことについて話すのはきまずい。

そんなことを考えていると

「はい、注文のコーヒー二人分。食料の方はもう少し待っててね」

注文の時とは違うひげを生やした声の野太いおじさんが頼んだコーヒーを持ってきた。というか食料ってなんだよ、世紀末かよ、と一人心の中で苦笑する。


頼んだコーヒーは、美味しい。そこまで味に大してすごいコメントが出来るほどの言葉の引き出しはないが、比べる対象が間違っている気はするが、普段学校の自販機なんかで売ってるものよりおいしいのは確かだ。


ここで大事なことを思い出す。


「そういえば、学校のこと聞きたいんだっけ?」

来生さんは学校のことを聞くために俺をカフェに誘ったのだ。

「えっ?」

彼女もまたコーヒーに浸っていたようで虚を突かれたように反応する。そして彼女自身も今それを思い出したかのようにうなずいてから、

「あー、そうそう学校について聞きたいってのは半分冗談。ここのカフェお洒落だなって思って入ってみたかったんだけどなかなか1人で入れる勇気無かったんだよね。だからさそったんだ。」

「えっ?」

今度はこちらが虚を突かれたような反応をしてしまう。

「クラスの女子とかは誘わないの?」

「うーん、なんというかそんなに気軽に誘えるほどまだ打ち解けてない気がするんだよね。霞屋君は一緒にしゃべる機会もなんだかんだで一番多くて誘いやすかったんだよ」

「えぇ、マジか。」


そこからは、クラスの人の去年1年生の間の話なんかを少ししていい感じに笑ったりしながら盛り上がった。来生さんは午後のおやつにしては多く、夕飯にしては少なくてまた時間も早いようないくつかの頼んだメニューを食べて2人で席を立つ。

盛り上がったこともあり、このまま自分は帰ればすぐ夕飯という時間になってしまった。

「あ、誘ったのこっちだしコーヒー代くらいおごるよ」

そう言って財布を開けて小銭を探してた俺の手を強引に押して会計にスタスタと行ってしまった。悪いなと思いつつ、店を出て

「ごちそうさま」

と伝える。


歩くと数分もしないうちに学校の最寄り駅の改札へと入る。来生さんとはどうやら電車の方向が反対らしいので改札を抜けてすぐのところで分かれる。

「じゃあ、また明日ね」

「また明日」

俺がそう返すと来生さんは少し寂しそうな遠くを見るような目をする。

そして手を振って歩いて行った。


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