第3話 真面目
木島と彼女、来生さんについて教室で休み時間にしゃべった日から数日経った放課後、学年の学級委員が教室に集まっている。基本的に学級委員はクラスでの仕事がメインだが、学年で何かイベントを催すときなどに備えて学級委員同士の顔合わせ的なイベントである。事務的な自己紹介とあいさつをする。学年9クラス、各クラス2人ずつ学級委員がいるので合計18人が集まっている。そのうち半分ちょっとは前年と同じ顔ぶれである。
大した連絡もない学級委員会議は30分もしないうちに終わる。放課後30分も経つとグランドでは運動部の掛け声なんかが聞こえ、部活に入っていないようないわゆる帰宅部の人たちはすでに下校済みで、昇降口は割と静かな空間となっている。部活に入ってない俺はそのまま帰る。誰もいない昇降口では下駄箱の金属の扉の音がとても響く。
しかし靴を履こうとすると下駄箱の壁の向こうからもう一つ下駄箱の扉の開け閉めの金属音が響く。そして靴を履きながら音の主が出てくる。
「おっ」
「あっ」
「来生さんまだ部活とかは入ってないの?」
「入ってないよ。だからこれで帰りだよ。霞屋君も帰るとこ?」
「そうそう、学級委員会議の後すぐいなくなったから部活とか入ってるんだと思った」
こうしてさっきまでの学級委員会議で隣に座っていた、転校生なのにいきなり学級委員を立候補した来生さんだ。他に一緒に帰る人がお互いいなかったので彼女と帰る流れになった。
「霞屋君はなんで学級委員になったの?」
「うーん、ラクだからかな」
「ふふっ、この学校の学級委員ってラクなの?」
「大した仕事無いからラクだよ」
少し申し訳なさを感じた。転校生でいきなり学級委員を立候補するような人だ。きっと真面目でやりがいのあるような仕事だと期待して立候補したのかもしれない。そう考えると期待を裏切ることになってしまうのでやはり少し申し訳ない。しかし、
「ならよかった。前の学校も学級委員ってなんだかんだでラクだったから今回もそうだといいなって思ってたから」
心配はどうやら杞憂だったようだ。案外どこの学校でもそんなもんなのだろうか。
「ほう、すごい真面目でやる気満々なタイプの人なのかと思ってた」
「全然そんなことないよ」
彼女は手を振りながらそう答える。割と真面目そうなタイプに見える人柄と思っていたけど、思ってるほど真面目なキャラではないのかもしれない。
「なら、普通に両方ともラクしたくて学級委員立候補してたのか」
「そうなるねぇ。この学校別に委員会とかはやらなくてもいいみたいだけど、一応やっとけば先生とかからの印象はよくなるだろうし、って思ってた」
笑いながらそんなことを言っているのでとりあえず真面目な人イメージは違うので間違いないようだ。
学校から駅の方に近づいていくと様々な飲食店が並ぶようになっていく。マックなんかはよく学校帰りのうちの高校の学生の溜まり場になっている。その隣のスタバなんかもそうだ。
「ねぇ、この後暇?」
「えっ?」
いきなり彼女はこんなことを聞いてきたので俺は少し驚く。
「いや、少しお茶しないかなぁって。小腹すいちゃったし、あとこの学校のこともっと聞いておきたいなって思って」
「あぁ、そういえばまだこの学校のことそんなに知らないのか」
俺でも記憶の怪しい先生の名前を憶えていたり、特に学校の中でも教室などの集合場所に迷うそぶりも見せない彼女が転校してきたばかりという事実を久しぶりに思い出す。
「別にこの後の予定もないしいいよ」
「お、ありがとう」
というわけで唐突に学校帰りに2人で「お茶」をすることになった。こんなのもはやデートではないだろうか。俺は別に悪い気はしないしむしろ少しドキドキするような心境だが、彼女はどうなのだろうか。女子なんかはこんな2人の姿をクラスメイトなんかに見られた日にはあっという間に噂が広がってしまいそうなもので、そういうことは気にしないのだろうか。
そのままいろいろなことが気になりながら2人で駅の方に向かって歩いて行った。
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