第7.5話.保健室にて
俺は御陰先生との試合を終え、身体の節々を痛めながら保健室へと向かった。
全く、怪我させない程度には手加減してくれてもいいのに。
「すみません、授業で怪我をしてしまって」
俺は保健室の扉を開ける。
そこには、保健室の先生と同じクラスの
東野さんは何故か制服の上から白衣を羽織っている。
「あぁ、またA組の生徒だね。どの程度の怪我なの?」
保健室の先生は「めんどくさいなぁ」という雰囲気を漂わせながらそう尋ねてきた。
「えーっと、地面に倒された時に身体全体を打ち付けて背中が痛みます。あと、擦り傷がたくさんです」
「全く……こっちの仕事増やしやがって」
先生はぐちぐちと文句を言いながら俺の症状を紙に書き込んでいる。
どうやら今日の授業で保健室送りにされる生徒が多すぎて辟易しているようだ。
「その程度の怪我なら東野さんのところに行きな」
先生に保健室の奥へと案内される。
俺は何故東野さんがここにいるんだろうという疑問を抱えたまま東野さんの下へ向かった。
「あの、保健室の先生に言われて来たんですけど」
「あ、影道くん。そこに座って。実は私、今だけ怪我をした生徒の治療をしてるんだ」
そういえば、授業開始時から東野さんの姿を見ていない気がする。
「なんで東野さんだけ保健室なんですか?」
「えーっと、私、看護師になりたいって話前にしたじゃん? その話を御陰先生がどこからか聞きつけて、『東野は試合をするより治療や回復の経験を積んだ方が能力の成長と将来に繋がるだろう。今回は保健室に送られてくる生徒の治療をやってみてくれ』って言われて、ここで簡単な治療をしてるの」
なるほど、能力の成長と能力者の育成を重要視する御陰先生らしい提案だ。
「確か東野さんの能力は回復や治療にも使えるんでしたね」
「そうそう、よく覚えてたね」
東野さんとは以前能力を教え合ったことがあり、その時に教えてもらった。
「じゃあ、どんな怪我なのか教えてもらっていい?」
「えーっと、軽い打撲と擦り傷ですかね」
俺は先ほどと同じような説明を繰り返した。
「分かった、じゃあ、始めるね」
東野さんは俺に向かって手のひらを突き出す。
「【
東野さんが能力を発動し、心地よい風が吹いてくる。
その風を浴びていると温泉に浸かっている時のような気分になり、痛みが段々と引いていく。
「どうかな? 治ってきてる?」
「うん、なんかすごい気持ちいいです」
「よかった、痛みはどう?」
「段々無くなってきてる気がします」
治療は約1分間続けられ、俺の怪我はほとんど完治した。
腕を回したりストレッチをしてみても身体のどこも動かない。それどころか、身体が軽い感じもする。
「怪我の治療と疲労回復をしたんだけど、うまくできてるかな」
「うん、身体が軽い感じがします」
「よかった、影道くんは誰と試合をしたの?」
「俺は御陰先生とやりましたよ」
「えーあの御陰先生と? 強かった?」
「強いなんてもんじゃないですよ、どうやったら勝てるのかも分からないくらいで」
「治療が終わったならとっとと授業に戻ってー」
保健室の先生が俺と東野さんの会話を遮ってくる。
「す、すみません。東野さん、ありがとうございました」
「うん、授業頑張って。じゃあね」
俺はお礼を言って保健室を後にする。
まさか東野さんに治療してもらうことになるなんて思わなかった。
御陰先生は以前の授業で、能力を成長させるのに最も効果的な方法は対人戦であるって言っていたけど、回復系のスキルは例外なのかな、それとも対人戦以外にも能力によって適した訓練方法があるのだろうか。
もしかしたら、俺の【
それにしても、東野さんの白衣姿は新鮮だった。制服か体操着姿しか見たことがない同級生が別の恰好をしているのを見ると途端に魅力的に感じるのは何故だろうか。
東野さんは白衣が似合っていた。看護師よりは女医さんの方が向いているのかもしれない。
そんなことを好き勝手に考えながら、俺はグラウンドへと戻った。
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