第7話-2.鬼人

 直弥が清水先生にボコボコにされてから、清水先生による蹂躙劇はしばらく続いた。

 清水先生と対戦する生徒のほとんどは中長距離を得意とし、相手と距離を取る戦い方をする生徒がほとんどだった。みんな清水先生の【沈黙のサイレント・守護者ガーディアン】を突破できず、近接戦闘でボコボコにされていた。

 清水先生の近接戦闘のレベルは半端じゃない。スピードもパワーも生徒とは桁違いで誰も太刀打ちできておらず、ほとんどの生徒は何らかの負傷を負い、保健室送りにされた。


「では、次に鬼瓦先生と戦う生徒、準備してくれ」


 御陰先生の指示で数人の生徒が立ち上がる。怖い先生ランキング圧倒的1位、生徒指導も担当する鬼瓦先生と戦わなければいけないこともあって、立ち上がった生徒たちは皆憂鬱な面持ちだ。

 その生徒の中に匣宮さんもいた。


「最初の試合は匣宮 彩乃はこみや あやの、準備ができ次第フィールドに入れ」


 匣宮さんは緊張した面持ちで試合が行われるフィールドへと向かった。匣宮さんが向かう先では、鬼瓦先生が腕を組んで仁王立ちをしている。


「では、試合開始ッ!」


 御陰みかげ先生の合図で試合が始められる。

 匣宮さんは試合開始と同時に後ろに下がり、鬼瓦先生との距離を取る。匣宮さんの能力【秘匿領域ブラックボックス】は近接戦闘には向いていない。相手とつかず離れずの距離を取るのは定石だ。

 しかし、鬼瓦先生は距離を取ろうとする匣宮さんを追うようにして距離を詰める。

 スピードは明らかに鬼瓦先生の方が上だ。あっという間に距離を詰めた鬼瓦先生は匣宮さんに対して拳を繰り出す。


「くっ……【秘匿領域】!」


 間一髪、匣宮さんを覆った黒い壁が鬼瓦先生の拳を防ぐ。

 俺と試合をした時と同じ防御手段だ。防御に利用された【秘匿領域ブラックボックス】を突破するのは困難だということを、俺は身をもって知っている。

 攻撃を防いだ一瞬の隙で、匣宮さんは先生との距離を取る。まずは様子を伺うつもりらしい。

 確か、清水先生の並外れた近接戦闘を見てからでは、教師陣相手に距離を詰めるなんて恐ろしくてできない。匣宮さんの作戦は正しいだろう。

 そんな匣宮さんの様子を見た鬼瓦先生は、一度首を左に曲げ、コキッという軽い音を鳴らす。

 次の瞬間、鬼瓦先生の目つきが変わった。


「【鬼人オーガ】」


 鬼瓦先生が拳を握りしめながらそう唱えると、先生の身体が赤く輝き始める。赤い光は先生の身体にまとわりつき、全身を覆っていく。

 光に身を包んだ先生は、能力を発動する前と比べ3~4倍の大きさになっているように見えた。その姿はまるで昔話に出てくる鬼みたいだ。

 変身した鬼瓦先生は一切動かず、ただ匣宮さんを見ている。まるで何かを待っているようだ。


「隙あり!」


 匣宮さんはその隙を見逃さず能力を発動し、【秘匿領域ブラックボックス】の中に先生を閉じ込める。

 あの能力で一度拘束されれば出ることはできない。このまま匣宮さんが能力を解除せずに1分経過すれば決着がつく。

 鬼瓦先生の能力発動から匣宮さんによる拘束が行われるまでがあまりにもあっけなさすぎて見ていた生徒は全員呆気にとられた。

 なんだ、鬼瓦先生は見かけ倒しで大して強くないじゃないか。

 そう俺が思った瞬間、何かが衝突するような大きな音がする。

 それと同時に鬼瓦先生を覆っていた空間が割れ、中から拳を突き出した鬼が現れた。


「……っ噓でしょ!?」


 匣宮さんは能力を解除したわけではない。拘束されていたはずの鬼瓦先生が中から【秘匿領域ブラックボックス】を破壊したのだ。

 

「マジかよ……」


 俺も思わず声が漏れてしまう。

 匣宮さんの【秘匿領域ブラックボックス】の硬さは身をもって知っている。

 あれは殴っても蹴っても破壊することはできず、閉じ込められれば能力が解除されるまで出られないはずだ。

 しかし、鬼瓦先生は能力を使っているとはいえ、ただのパンチであれを破壊した。

 【秘匿領域ブラックボックス】の破壊にどれだけパワーが要るのかは検討もつかないが、鬼瓦先生のパワーがとんでもなく破格のものであることは確かだ。

 匣宮さんの拘束を正面から突破した鬼瓦先生は一気に距離を詰める。

 先生のスピードは先ほどより明らかに上がっている。恐らくあの変身能力は自身を強化することができるのだろう。

 匣宮さんは全速力で逃げながらも先生の周りに【秘匿領域ブラックボックス】を生み出し拘束を狙っている。

 しかし、鬼瓦先生はそれを避けようともせず、全て拳で破壊しながら匣宮さんに迫る。

 踏み込むたびに地面に穴が開き、全てを破壊し尽くさんというように拳を振るう鬼瓦先生の姿はまるで怪物だ。

 先生は10秒も経たないうちに匣宮さんに追いつき、拳を振り上げる。匣宮さんは試合開始直後と同じように能力で防御するが、それも薄氷のように割られた。

 鬼人となった先生と匣宮さんの間には、もはや阻むものはない。匣宮さんの防御を破った拳がそのまま振り抜かれるかと思われた。

 しかし、先生の拳は直前で止まり、その余波が風となって匣宮さんの髪が揺れる。


「こ……降参です」


 匣宮さんは声を震わせながらそう宣言した。


「そこまで、試合終了」


 御陰先生の合図で試合が終わる。すると、鬼人を形作っていた光は霧散し、いつもの鬼瓦先生に戻る。相変わらず顔は怖い。

 匣宮さんはフィールドを離れ、見学席に戻って来た。その顔は驚きと疲労が混じったような表情だ。

 怒涛の勢いの試合だった。まさか鬼瓦先生があんな能力を持っていたとは。清水先生も強かったけど、単純な殴り合いなら絶対に鬼瓦先生の方が強いだろう。

 それにしても、鬼瓦先生にも意外と優しい面もあるんだな。試合だからといって生徒を殴り飛ばすことなく、降参を促すようにするなんて。ヤクザみたいな見た目で鬼のような能力を持っていてもちゃんと優しさは持ち合わせているのか。

 俺がそんなことを思って顔を上げると、匣宮さんの次に試合を行っていた男子生徒が盛大に殴り飛ばされていた。

 清水先生と同様に、鬼瓦先生も圧倒的な力で生徒を蹴散らしていく。鬼瓦先生と戦った男子生徒は全員何らかの負傷を負って保健室に送りとなった。

 女子生徒で負傷した人は1人もいない。鬼瓦先生も流石に女子高生を殴り飛ばすのは気が引けたのだろうか。


「では次、私と戦う生徒の番だ。準備してくれ」


 御陰先生は鬼瓦先生の出番が終わるとすぐフィールドに足を踏み入れる。

 清水先生や鬼瓦先生がポロシャツやジャージといった動きやすい服装になっていたのに対し、御陰先生はいつも通りのスーツ姿。準備運動も大して行っていない。

 しかし、相手が運動に適さない服装の女性であっても決して油断はできない。なんたって御陰先生も圧倒的な力を見せつけた教師陣の1人だ。


「1人目の相手はとおるだな。準備が出来たらフィールドに来てくれ」


 先生はフィールドの中央から俺の方を見て指示を出す。

 俺は一度大きく深呼吸をしてから先生の下へと向かった。

 フィールドの中央で御陰先生と相対する。相変わらずすごいスタイルの良さだ。身長は恐らく180cm後半から190cm。全体的に細身ではあるものの、スーツの上からでも分かるほど出るところがしっかり出ていて女性らしい。けれども、安易な品の無さは一切なく、どこを切り取っても品位が感じられるようなスタイルとファッションだ。


「通、試合前に少しいいか?」


 俺が緊張を忘れ御陰先生の観察に耽っていると、不意に話しかけられた。


「あ、はい。すみません」

「何を謝ってるんだ、別に怒ってるわけじゃないぞ」

「あ、なんというか、集中してなかったもので」

「? まぁいい、集中はしてくれ。試合前に私の能力について伝えておきたい」


 俺の様子を不審がりながらも、御陰先生はそう話し始める。


「能力? 戦う前にですか?」

「あぁ、そうだ。清水先生と鬼瓦先生は自身の能力を明かさないまま試合をしていたが、生徒の能力を知っている教師と教師の能力を知らない生徒とではあまりにも生徒が不利すぎるからな。私は自身の能力を明かしてから戦いたいと思う」

「なるほど……ありがとうございます」


 正直、教師陣の能力を知っていたとしても実力差がありすぎて勝つことは難しいと思うけれど、聞いておいて損はない。

 俺は先生の言葉に耳を傾ける。


「私の能力は【影紡ぎの巫女ネクロスリンク】、化身タイプの能力で、魔力で出来た糸を作り出すことができる。この糸は手から出すことができて、本数と強度は魔力量によって増していく。以上だ、質問はあるか?」


 御陰先生の無駄のない簡潔な説明を必死に頭に入れて質問を考える。


「えーっと、糸の太さと強度はどのくらいですか?」

「太さは毛糸くらいの太さからピアノ線くらいの細さまでなら自由に変えることができる。強度は、少なくとも生徒の能力では破壊できないくらいだ。絶対に切れないピアノ線を幾らでも生み出せる能力だと思っていれば分かりやすいだろう」


 なるほど、つまり目に見えない程細い糸で攻撃される可能性もあるということか。警戒のしようがないな。


「もう質問はないな。では、試合を始めよう」


 御陰先生は一歩離れて俺と距離を取る。俺も先生に習って一歩下がる。

 俺と御陰先生が話している間に審判の位置に清水先生が立っていた。


「両者準備はいいですね? それでは、試合開始」


 清水先生によって静かに試合の火蓋が切られる。


「【独り歩きナイトウォーカー】!」


 俺は試合開始と同時に影人形を繰り出しながら御陰先生との距離を取る。

 自身と先生の間に影人形を立たせ、いつ攻撃されても対応できるような態勢を取る。先生はまだ能力を発動していない様子だ。


「(化身型の能力ならこの距離感でいきなり攻撃されることはないはずだ。それに先生の能力は手から発動される。手を注視していれば不意打ちをされることもない)」


 先生の能力の性質を考えながら様子を伺う。先生はまだ動かない。


「能力を発動しているのに攻撃しないのか?」


 様子を伺っていると、先生が話しかけてきた。

 こちらの攻撃を誘っているのだろうか。


「……先生は能力を発動しないんですか?」

「まだ能力を使う必要がないからな」


 俺が攻撃するまで能力を使わないつもりだろうか。そうだとしたら、先生の能力の発動は一手遅れることになる。

 きっと先生は俺からの先制攻撃を受けても問題ないと思っているのだろう。


「じゃあ、いきますよ!」


 俺は影人形を先生に向かわせた。

 狙いは右肩、影人形の拳に魔力を集中させる。


「遅いな」


 先生はそう言いながら軽々と拳を躱す。

 影人形のスピードでは先生の相手にならないようだ。


「(だったら下からだ)」


 影人形の左足で蹴りを放つ。先生の左すね辺りを狙った視界の外からの攻撃だ。

 先生はそれを避けず、蹴りは狙った場所に当たった。


「よし!」

「弱いな」


 俺が喜んだのも束の間、それがぬか喜びだったということを一瞬で理解した。

 確かに蹴りがモロに当たったはずなのに、先生は全く動じていない。気づかない間に能力で防御していたとは考えられない。攻撃が当たった上でそれがダメージになっていないのだ。

 

「先ほどの魔力を込めた拳は遅く、今の蹴りは弱い。これでは攻撃になっていない」


 先生は欠点を指摘をしながら、影人形の腹に蹴りを入れた。

 影人形は吹き飛ばされ、俺の足元まで転がってくる。

 とんでもなく威力の高い蹴りだ。影人形の魔力が一気に失われるのを感じる。

 

「その人形だけでは勝てないぞ」


 先生は少し挑発するようにそう言ってきた。

 俺は以前匣宮さんから指摘されてことを思い出した。俺自身も攻撃に参加するべきだろうか。


「(ダメージ覚悟で攻めてみるか……?)」


 俺が悩んでいる間も先生は腕を組んだまま動かない。俺の攻撃を待つつもりのようだ。


「(カウンターを狙ってるのか? いや、さっき聞いた先生の【影紡ぎの巫女ネクロスリンク】はカウンターを狙うような能力とは思えないけどな)」


 影人形を立たせながら考える。先生が動かない以上こちらから攻めるしかない。

 俺は身体中に魔力を巡らせて身体強化をする。


「じゃあ、いきますよッ!」


 影人形と共に一気に先生との距離と詰め、攻勢に出る。

 いくら先生が強いからと言って、2 vs 1の状況なら隙が生まれるはずだ。

 俺は右の拳で先生の肩を狙い、影人形は左足で先生の太ももを狙う。

 しかし、俺の拳は半身で躱され、影人形の蹴りは足で受け止められた。やはりスピードもパワーも圧倒的な差があってまともに攻撃が当てられない。

 俺は影人形と連携をしながら肉弾戦で攻め続けたが、2 vs 1という状況を物ともしない先生に難なくいなされる。


「お前の能力は容易に2 vs 1という状況を作り出せる点で優れている。だが、それに頼りすぎているな」


 先生は俺の攻撃を躱しながらそう言った。


「頼りすぎてるって、中々理にかなってる戦い方だと俺は思うんですけどッ!」


 右足のハイキックを繰り出したが、不発だ。


「ならば、こうなったらどうする? 【影紡ぎの巫女ネクロスリンク】」


 先生はこの試合で初めて能力を発動した。先生の手から紫色の光る糸が出現する。

 その糸はみるみるうちに伸び、影人形に絡みついた。


「なんだ……?」


 能力で攻撃されることを警戒しながら、その様子を見守る。

 次の瞬間、糸が影人形を締め付けた。その締め付けはあまりにも強く、影人形は抵抗する間もなく拘束される。そして、タイヤがパンクするかのような破裂音とともに影人形が消滅した。


「う、嘘でしょ!?」


 衝撃だ。影人形は魔力で作り出した俺の分身のようなものだ。いくらさっきの蹴りでダメージが入っていたとはいえ身体強化をしている影人形が一撃で壊されるなんてことはあり得ない。

 影人形を一撃で壊せるということは、つまり俺の身体も同様に壊すことができるということになる。


「さぁ、どうする?」

「どうするって言われても、もう攻撃手段が無いし、こうさ……」

「負けそうだからってすぐに降参することを私は許さないぞ」


 先生はそう言って能力を発動しながら一歩近づいてくる。俺は思わず一歩後ずさりをした。


「よく考えろ、この試合は授業だ。授業の目的は生徒の成長と育成だ」

「成長と育成……?」

「お前の能力は、”魔力で人型の人形を作り出す能力”なのか?」


 先生はまた一歩近づいてくる。


「お前は今、能力が使えない状態なのか?」


 俺は頭をフル回転させて考える。

 俺の能力で今出来ることは何なんだ。能力を使えないわけではないけど、先ほどのような影人形を生み出す魔力は残っていない。

 【独り歩きナイトウォーカー】は、魔力でできた人形を作り出す能力、そして、その形も大きさも自由自在だ。

 そこまで考えて、思い至る。


「そうか!」


 打開策を思いついた俺は一度先生と距離を取り、間髪入れずに距離を詰めて肉弾戦を仕掛けた。


「……さっきと変わらずか」


 相変わらず、俺の攻撃は全ていなされる。影人形が破壊された今、単純な徒手空拳では手も足も出ない。先生の能力で生み出された糸が身体に絡みついてくるのを感じる。

 でも、これでいい。


「これで拘束完了だ」


 先生の糸で縛り上げられた俺は立ったまま身動きが取れなくなる。


「【独り歩きナイトウォーカー】!」


 

 俺は拘束されながら能力を発動し、影人形の”手の部分だけ”を生み出した。その手を操り、攻撃に向かわせる。

 俺の能力で生み出すことのできる影人形の形は自由だ。板状にすることも手のひらサイズに小さくすることもできる。

 影人形を破壊されて攻撃手段を失ったと思っていたが、そんなことはなかった。人型の影人形で攻撃できないのであれば別の形にすればいいのだ。

 人型の影人形を生み出す魔力は残っていないけれど、手の部分だけならば生み出すことができる。

 俺は残っているほとんど全ての魔力を使って手だけの影人形を生み出した。

 影人形(手だけ)は先生の脇腹へと直撃する。


「くっ……やるな!」


 先生は俺の攻撃で怯み、拘束を解いた。


「「「おぉーーーー!!」」」


 見学している生徒からの歓声が聞こえる。

 今のところ先生相手に攻撃を通せたのは俺1人だけだ。


「これが、正解ですか?」

「そうだ、お前は自分の能力を制限している。お前の能力はもっと自由なはずだ」


 先生は脇腹をさすりながら話す。


「自分の能力を完封されたとしても、相手に通用するようにどうにか工夫を凝らす。さらに、自らが拘束されることで相手を油断させ、攻撃を確実に通す。良い判断だ」

「ありがとうございます、先生がアドバイスしてくれたおかげです」


 俺は正面から先生に褒められ少し照れながら謙遜する。

 口では謙遜したけれど、俺は先生相手に攻撃が通ったことに少し自信を感じていた。

 もしかしたら、生徒の中で唯一先生に勝てるかも!


「その目、調子に乗ってるな?」


 先生は俺の内心を見透かしてニヤリと笑った。

 その瞬間、俺の真横でタイヤがパンクしたような破裂音がする。

 音がした方向に目を向けると、先ほど俺が生み出した影人形(手だけ)が破壊されていた。先生はいつの間にか能力を発動して、俺の周りに糸を張り巡らせていたらしい。


「教師に一撃入れたからって勝てると思ったか? お前を成長させるために手加減していたに決まっているだろう」


 先生の手から生み出される糸がどんどん多くどんどん太くなっていく。


「ここからは本気だ。抵抗してみろ」


 その言葉と同時に、無数の紫の糸が襲い掛かってくる。

 俺はなけなしの魔力で身体強化をかけ躱そうしたけれど、先生の手数の多さと攻撃の速さに対応しきれない。

 そこからは一方的な蹂躙だ。

 足を縛られ転ばされ、糸を鞭のようにして叩かれ、最後は拘束されてゲームセット。


「降参です……」

「そこまで、試合終了」


 清水先生の声で拘束が解かれる。


「通、良い試合だった。身体中が痛むだろう、保健室に行くといい」

「は……はい」


 御陰先生は先ほどまで俺を痛めつけていたとは思えないほど優しい言葉をかけてくる。

 後半は俺をいたぶるのを楽しんでいたように見えたけど、気のせいだろうか……。

 俺は痛む箇所を抑えながら保健室へと向かう。

 この日の授業は結局誰一人として教師に勝てないまま終わった。

 しかし、みんなの様子を見ると教師と戦った生徒全員が自分の弱点や伸びしろを理解しているようだった。

 俺もそのうちの1人だ。これから自分の能力を高めていこうというやる気がふつふつと湧いてくる。


______________________________________

鬼瓦おにがわら 治一郎じいちろう

能力名:【鬼人オーガ

型:射出型

・身体中から赤く光る魔力を放出し、それを纏うことができる。

・能力発動後は纏った後の姿は鬼のようであり、見かけ上の身体の大きさは通常時の4倍ほどになる。

・魔力を纏った姿では、パワー、スピード、耐久力が大幅に強化される。

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