第6話.魔闘祭とは&感想戦
「今日は魔法についてではなく、この学校について少し学びたいと思います」
授業が始まって開口一番に清水先生がそう話す。
「皆さんはこの学校が何のために設立されたのか知っていますか?」
先生と目が合った生徒は軒並み首を横に振る。
「知っているという人は手を挙げてみてください」
先生がそう言うと、学級委員の
「では明導くん、答えてください」
「僕たち能力者の育成と管理をするためです」
確か以前の授業でそんなようなこもを教えてもらった気もする。
社会にとって貴重で危険な能力者は、専門的な育成と厳重な管理が必要なのだと。
「その通りです。では、今春皆さんも参加した『魔闘祭』にはどのような意味があるかは知っていますか?」
またも生徒は軒並み首を横に振る。これに関しては明導くんも知らないようだ。
「知っている人は1人もいないようですね。皆さんは1年生だから、無理もありません」
先生は俺たちに背を向け、黒板に大きく『魔闘祭とその目的』と書いた。
「まず、魔闘祭の主な目的は皆さんの成長度合いの確認です。魔闘祭には一般の方々の他にこの学校を管理・運営してる国の偉い人たちも見に来てきます。そう言った人たちが今年の新入生はどんな能力を持っているのか、在校生達はどの程度成長しているのか、そういうことを確かめにくる場なのです」
春の魔闘祭には立派な客席が設けられていたけど、あそこにいたのは能力者バトル好きなただの一般人だけではなかったというわけか。
そんな人たちがいると知ったら、前回何もできずに1回戦で負けてことが余計に恥ずかしく感じてくる。
「育成や管理をされたり成長度合いを確認するために戦わせられたりと、生徒たちをいいように利用していると思われるかもしれませんが、皆さんにとって良い点もあります」
ただ高校に通っているだけなのに勝手に管理され、勝手に能力を評価・育成され、俺たちにとってのメリットなんてあるのだろうか。
俺がそんなことを考えていると、先生は黒板に『優勝賞品』と書いた。
「その1つが優勝賞品があることです。賞品は、生徒の希望するものなら何でもアリです」
教室が一瞬でざわめき始めた。
優勝賞品があるなんて話も初耳だし、賞品が何でもアリとは一体どういうことだろうか。
「優勝賞品以外にも、結果を残せば能力者を必要とする企業や大学からスカウトがくることもあります。もちろん魔闘祭への参加は強制でありませんが、生徒の将来を考える先生や学校の立場からすればぜひ参加してほしいところです」
生徒のざわめきを意に返さず、先生は説明を続ける。
「先生、質問いいですか?」
そんな中、1人の生徒が挙手をする。先程と同じ明導くんだ。
「はい、なんでしょうか」
「その、優勝賞品が『何でもアリ』というのはどういうことでしょうか」
「言葉のままの意味です。もちろん、学校や国が用意できるものに限られるので厳密には何でもアリではないのですが、こちらが用意できるものであれば基本的には何でもアリです。例えば、お金だったり名門大学への入学だったり希望する会社に就職する権利だったり。過去にはクラス替えを自分の好きなように変えた人もいましたね」
「なるほど、ありがとうございます」
『何でも』というのは本当に何でもらしい。お金からクラス替えの権利まで選べるなんて何とも魅力的だ。もし、俺が優勝したら何を頼もうか。
そう考えているのは俺だけじゃないらしく、先生の言葉を聞いて唾を飲む生徒や何かを考え込む生徒が多くいた。きっとみんな自分が優勝した時に貰うものを考えているのだろう。
「ちなみに、魔闘祭というのは皆さんが参加したことのある1 vs 1形式の大会だけのことではなく、この学校で行われる行事の総称です。色々なルールの大会が存在し、それら全ての成績を合算して優勝者が決められますので、みなさん奮ってご参加くださいね」
これも知らなかった。恐らく、一般公開されている大会は1 vs 1形式のものだけなのだろう。
1 vs 1という試合形式は、有利な能力と不利な能力でかなり差が出る。そういった差を解消するために多様な大会が開催されるようだ。
優勝するにはそれらの大会に出場し続けてどんなルールでも好成績を残さなきゃいけないということか。
「とは言っても、次に開催される大会は1 vs 1形式のものですね。御陰先生から対人戦の練習はしていると聞いているのですが、どうですか? 自信はついてきましたか?」
面と向かって「自信はあるか?」と聞かれて「あります」と答えられる人は中々いないだろう。
先生の問いに対して下を向いたり苦笑いしている人がほとんどだ。
「いい機会ですので、今日の授業では感想戦をしてみましょうか。皆さん、自分が戦ったことのある人とペアを組んでみてください」
感想戦、主に将棋や囲碁の世界で使われる言葉で自分が対戦した相手とその対戦について「あれは良かった」「あそこは失敗だった」といった振り返りを行うというものだ。
以前戦ったことのある人、俺にとっては1人しかいない。
そう思い、教室の端の方をチラッと見るとそこには明らかに不機嫌なオーラを醸し出している匣宮さんがいた。
俺と匣宮さんはお互い1回しか試合を行っていないから、確実にペアを組まなければならない。
俺は恐る恐る匣宮さんの下へ向かう。
「あのー、感想戦、やります?」
俺が話しかけると、匣宮さんは鋭い眼光で睨みつけてくる。
無理もない。俺は以前の試合で匣宮さんにセクハラ紛いのことをしてしまい、それ以来ちゃんと話すことも謝ることもできていないのだから。
「皆さん、ペアは組めましたか? では、授業の終わりまでお互いの戦い方や戦術の良かった点やイマイチだった点を話し合ってみてください」
教室内の様子を見て先生が指示を出す。
匣宮さんからの返事はもらえてないけれど、僕は仕方なく近くの椅子に座った。
匣宮さんは目を合わせてもくれない。あちらから話してもらうのは難しそうだ。
「匣宮さんの戦い方、とても理にかなってると思いました。匣宮さんの能力で閉じ込められたら一撃必殺ですし」
とりあえず褒めてみるけど、匣宮さんの表情はムスッとしたまま変わらない。
「俺は、やっぱり決め手に欠けてましたね……。あの時勝てたのも偶然というか」
まだ匣宮さんからの反応は無い。
「……あの時は、お体に触れてしまい申し訳ありませんでした」
俺が観念して謝罪をすると、匣宮さんはようやく口を開いてくれた。
「別に、……てない」
「え?」
口を開いてくれたけどよく聞き取れない。
俺が聞き返すと匣宮さんは今度は俺の目を見る。
「別に気にしてないって言ってんの!」
「す、すみません」
どうやらかなり気にしているようだ。これはちゃんと謝らなければ。
「あの、本当にわざとやったわけじゃなくてですね。あの時は何も見えなくて」
「うるさい! もう気にしてないって言ってるでしょ、わざわざ思い出させるようなこと言わないで!」
匣宮さんは少し赤面しながらそう怒鳴る。
俺は謝りたい気持ちでいっぱいだけど、これ以上謝ったら彼女をもっと不機嫌にさせてしまいそうだ。
これ以上俺からは話しかけられず、1分ほどの沈黙が続く。
「はぁ……感想戦、始めようか」
沈黙の後、匣宮さんはため息混じりに話し始めた。匣宮さんは気が強そうで怖いけれど根は真面目でしっかりとしているタイプだ。
授業となればしっかりと話してくれるようで助かる。
「……正直、私の戦い方どうだった?」
匣宮さんはそっぽを向きながら尋ねてくる。
話はしてくれるけど、まだ俺のことを許した訳ではないらしい。
「上手い戦い方だなとは思いましたけど、正直に言うと対処することもそんなに難しくはなかったです。【
俺は匣宮さんとの試合を思い出しながら正直に答える。
匣宮さんは自身の能力の特性や強みを活かして俺の拘束を狙っていた。その戦法に苦戦はしたけれど、対処することはできたし結果的に俺が勝利しているというのも事実だ。
「そうね、私もそう思ってたところ」
「まぁ、結局最後は避けれなかったんですけどね……」
俺が苦笑いしながら自虐しても、匣宮さんは無反応だ。
また少しの沈黙が生じる。
「あの、俺の戦い方はどうでした……?」
匣宮さんはまるで俺の声が聞こえていないかのようにそっぽを向いている。
少し間を置いてから、匣宮さんは口を開く。
「相手と距離を取りながら影人形で攻めてくるのは、中々相手にしづらかった。影人形を攻撃しても本体にダメージがいく訳じゃないし」
悪口を言うようなトーンで褒めてくれる。
「でも、影人形が超弱い。力も弱いし動きも遅いし、何をやるにしても力不足って感じ。影人形が弱いんだから、あんたも攻撃に参加したら?」
「はい……」
今度は明確な悪口で少し傷つく。
でも、匣宮さんの指摘は的確だ。俺の【
それに影人形は自由に操作できるけれど対人戦で素早く正確に操作するのは難しい。パンチやキックを繰り出すだけでは単純でぎこちない動きになってしまうし、複雑な動きをさせようとするとどうしてもワンテンポ遅れてしまう。
そんな影人形に攻撃の全てを任せるのは得策とは言えない。匣宮さんは影人形の攻撃をひたすら躱していたけれど、身体強化が上手い人や近距離戦闘向きの能力者相手では影人形が倒されていただろう。そして、俺は影人形以外の攻撃手段を持たない。影人形が倒される=詰みなのだ。
「まぁ、影人形が相手を止めてれば影道本体は自由に動ける訳だし、本体がちゃんと動いてれば悪くない戦法だと思うけどね。影人形がやられても負けってわけじゃないし」
「でも、影人形がやられると攻撃手段が無くなっちゃうんですよね」
「……なんで自分の身体では戦わないの?」
「えっと、格闘技の経験とか無いし、身体強化苦手だし……」
俺がそうやって言い訳をしていると、匣宮さんは大きくため息をついた。言葉には出していないが「ダッサ」とでも言われた気分だ。
でも、影人形がなければ能力が使えないのと同じで無防備になってしまう。それなら、影人形で攻めるよりは自分を守るために使った方がいいのだろうか。
そう考えたところで、匣宮さんが【秘匿領域】を防御にも使っていたことを思いだした。
「そういえば、匣宮さんは能力を防御に使ってましたよね。あの使い方は上手いですね」
「まぁね、私の【秘匿領域】は基本的に壊されたりしないから、防御に使えば相手の攻撃が通ることは無いと思う。こっちから攻撃することもできないけど」
「防御しながらの攻撃は無理ってこと?」
「そう、私の能力は2箇所同時に発動することはできないから。自分の防御に使ってる時は攻撃もできないってこと」
「なるほど、使い分けるタイミングが難しそうですね」
「元々攻撃に向いてる能力じゃないしね」
それから俺と匣宮さんは【独り歩き】と【秘匿領域】、それぞれの強みや弱み、お互いの戦い方の改善点などなどアドバイスしたりされたりで、気づけば授業終了時間まで話し込んでいた。
匣宮さんからのアドバイスは最後まで悪口のようなトーンだったけど。
「はい、皆さん。有意義な感想戦は行えたでしょうか。そろそろ授業を終えますので自分の席に戻ってください」
先生の指示で生徒が動き出す。
俺も席に戻ろうと立ち上がり、匣宮さんに軽く会釈した。匣宮さんは一瞬だけ目を合わせた後プイっと顔ごと目線を逸らした。
一瞬だけ目を合わせてくれたので数十分前と比べたら少しは許してもらえているだろう。そう信じたい。
「今日の感想戦の授業、誰とやった?」
その日の放課後、直弥と下校している時に今日の授業の話になった。
「匣宮さんと」
「あー……ちゃんと謝った?」
「一応謝ったよ。許してくれたかは分からないけど」
「匣宮さん怖いからね……」
「そうなんだよなぁ、少しは許してくれてると信じたいよ」
直弥は今日の感想戦で「威力が高すぎて弱点が見当たらない」と言われ、自分でも相手の改善点を見つけることができず、有意義な時間を過ごすことができなかったようだ。
以前
直弥と話しながら単純で強力な能力というのは使いやすいけれど、学校生活、特に今回のような授業では活かしにくいから大変そうだと思った。
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能力名:【
型:化身型
・自身の周囲に防御壁を生み出すことができる。防御壁には常に能力者本人から魔力を供給することができ、能力者本人の魔力が尽きない限り維持することができる。
・防御壁には魔力を拡散させる性質があり、魔力でできたもの(能力によって生み出された化身や射出されたもの等)は衝突と同時に拡散させ、威力を殺すことができる。
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