第6話〈side 楊明〉

 職務に追われているのにも関わらず、俺の表情はずいぶんのん気なものだった。

 どうしたもこうしたもない。あの少女……陸玉蘭りくぎょくらんのことだ。


 最初は暗い感じの娘だな、と思っていたが、どうも少し違う。

 母親を亡くした喪失感で腐りきっていた俺に、親身に寄り添ってくれている。正直あのとき、彼女のことは見直した。


 ときおり前髪が崩れて、顔があらわになるのだが……その顔は美貌以外の何者でもなかったし、ちゃんと綺麗にしてもらった玉蘭の姿はとても美しかった。


 ……もはや単なる労働者としては扱えない。


「あの娘の瞳……まるで澄んだ海だな。そして……」


 忙しい公務の合間に、つい俺はそう呟いてしまう。


「なんであの娘のことばかり……他にも山ほど事務があるのに……」


 しかし、玉蘭の清らかな表情が、俺の心を離れることはなかった。

 蓮は泥より出でて泥に染まらず、その言葉通りである。


 そのとき、別の幹部が近づいてきた。


「ん? 楊太守、どうしたんだ? ここ一日か二日ばかりではあるが、最近表情が……」


 幹部は、俺の表情の変化に気づいているようだ。


「チッ……何でもない」


 俺は目を反らして表情を取り繕うが、心の中が変わらない。

 ……本当に、何も変わらない。


「ほう、そうか? 最近、女性の話題でも出ているのか? 楊太守、お前もついに……」


 幹部は、さらに深く掘り下げてくる。

 ……少し、イラっときた。


「うるせぇ、んなことないだろ」


 必死に否定するが、内心では落ち着かない気持ちでいっぱいだった。

 この乱世で、公私混同とか……太守として有り得ないな……。

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