第6話


 一ノ瀬は知っていたに違いない。


 好きだった。長いこと好きだった。


 道場のことがあるより以前からだ。


 理由は言えない。秘めて来たからだ。




 何故だろう。体が無性に熱い。




 ぐるりぐるりと部屋を這い纏わる。


 ウウンと寝転んでちょっと花の残り香を嗅いだら、もう辛抱堪らなくなって着物はそのまま、下履きを脱いだ。


 張り詰めた摩羅の熱さにおののいて、一瞬不道徳な行いを改めようか襖を見た。


 きっちり閉まっているのを見ても尚、気兼ねする。


 一ノ瀬の髪や目や、整った体に抱かれることを想像して、いや自分の方が年が上だとどうでもいいことを思った。



 嗚呼。



 隠微な遊戯に直ぐ夢中になった。

 先走りで滑りのよくなった己がテカり、赤裸々に裸を見せて仰ぎたくなる。


 竿の先に指をやると既に濡れている。溝口を引っ掻いて畳で呻いた。


 痛いほど握り扱く。痒いような粘膜の中、煮えたぎるものが押し寄せて声の抑えが利きそうにない。


 カズ、と弁士の師匠が呼んだことに嫉妬した。一ノ瀬、と言いカズ、カズっと言い直す。


 唇に乗せるとひどく小さな声になる。


 気がつけば妄想の一ノ瀬がそこに立っていたので、仰ぎ見て更に擦った。


 来てくれ、と反対の手を伸ばす。


 極限まで超えた熱さのぴちゃぴちゃという音に混じり、一ノ瀬が何か言った。



 ――――困ります、と。



 何がだ。幻覚なのだから日頃の理性は飛ばしてほしい。


 手で上着の襟首を掴み、口づけて畳に押し倒した。


 ふぅん、くぅんと自分の息を漏らす声が。舌を絡め取ろうとすると、一ノ瀬は待てをするように手を掲げた。


 ちょっと驚いた目の見開きと、互いの眼鏡の当たる音が、現実にかなり近い。


 乗り上げた感触が想像より硬い体で、自分の脳は便利な物だなと思う。


 盛った獣のような下半身に、一ノ瀬は触れて来ない。寂しく思って片腕で抱き着くと、抱っこをするように背中に手を回してきた。


 逝けないんだ、と両手で掴む。


 僕を両腕で抱き寄せた一ノ瀬が、耳を噛んで、胸の突起はどんな頃合い?と囁いた。


 着流しを脱ぐ手間を惜しんで、片手で触り、弄り、捏回した。乳首が痛く擽ったい。


 喘ぎが止まらず摩擦の及ぼす快楽に目を閉じ、眦を濡らした涙を一ノ瀬が呑んだ。


 再度、逝けないと叫んだ口の端に、一ノ瀬の唇が掠める。



 冷たいその手が握っていると思うだけで。雁高の段差を確かめる指を感じるだけで、アアと鳴いた。


 一ノ瀬の指が僕の手に絡みつき、しっかりと上下に包んだ。


 卑猥な音に頭を白くし、背中を撫でるもう片方の手に気をやる。


 上に乗りながら腰をうごめかし、額をくっつけると唇を奪われ、体が逆になった。


 扱き続ける掌の感覚と、深い場所を探る舌の根に、我に返る。


 一ノ瀬、と囁くと、自分の眼鏡を外して完全に唇を塞ぐ。


 畳に押し付けられるまま、重みを感じ、喘ぎの大きくなるのを抑え、追い詰めようとする手の熱さに気が遠くなった。


 一緒に握っている男根に、一ノ瀬の盛り上がった股間が当たる。先端を擦りつけると益々中で大きくなり、一ノ瀬がハァと息を吐いた。


 出してあげようかと聞く前に、自分で前開きの釦を外す。下着の間から出たソレは、脈を打って反り返っていた。


 面白がってご挨拶のように先っぽ同士を当てる。一ノ瀬が体を落としてきたので、反射的に掴んだ。


 互いに互いを慰め、握った相手のを自分のと擦り合わせる。噴いた白い泡が粘着質な水音を発っして、堪らず二本一緒に扱いた。


 右に左に手のつけられない生き物が動く。


 イイだの厭だの叫びそうになる度に、堪えて眉の寄った一ノ瀬の綺麗な顔を見る。


 好きだ、とその唇が確かに動いたので知っていると譫言を言った。




 我慢の限界だった。




 男根の筋が通り、ぴしゃりと跳ねる馴染みの心地よさが。手を開いてそろそろと眺めようとすると、一ノ瀬の手が遮り。


 手の平を執拗に舐められながら、ビクンビクンと幾度か痙攣をした。


 まどろみかけた視界の端で、僕の手を清め玉を拭い着物を直す、一ノ瀬を見上げる。






 その顔が切なく目を細めるのを見て、安心して眠りに落ちた。






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