第10話 お昼ご飯

 私立神野高校、3階男子トイレ。その奥の個室で1人、涙目になりながら弁当を食べている男がいた。


 そう、俺である。


 「はーー…くそ…なんで、…」


 まださっきの出来事から立ち直れていない。


 すぐに挨拶を返せていればその会話できたのかな…。そのままあおいさんとも友だちになれたのかな…。せっかく自分から話しかけてくれたのに。


 そうだ。人には割と何度もチャンスは訪れる。だが俺はいつもそれを掴むことができない。ただ勇気がないだけだ。そんな自分が嫌いだ。


 でもこんな憂鬱な気分なのに、やっぱりご飯はうまい。毎朝母が作ってくれてるお弁当。こんな場所で食べて、母に申し訳ないな…。


 今どきトイレで弁当?笑


 なんて思うかもしれないが意外と居心地は悪くない。でも俺だってちゃんと教室で食べたいよ。


 1学期の最初の頃の話だ。昼休みになり、1人で弁当を食べようとしたとき、


『ねえねえ、ちょっといい?』


 クラスの女子が話しかけてきた。


 えっ。もしかしてこれって一緒にご飯食べない?的なそういうやつでは!?


「え…。うん、どっどうしたの?」


『もし友だちとかと学食とか行く感じだったらさ、机貸してくれない?』


「……」


『いや、ごめんね…!みんなでご飯食べようと思ったんだけど。机が足りなくて。

 いや全然!お弁当とか食べるなら全然いいんだよ…!ただ良かったらって話で…。』


「……いや、いいよ…。丁度学食行くとこだったし…。」


 もちろん嘘である。これで断れるならぼっちなんてやってない。


『本当!!ありがとう!!

 ごめんね、急に来てこんな話になっちゃって。』

 

「いや全然…大丈夫。そっそれじゃあ。」


 その日を境に昼休みは毎日トイレに足を運んでる。


 屋上は鍵閉まってるし、余った机とか置いてる階段上の物置スペースはリア充の溜まり場になっている。もう俺にはトイレしか選択肢がなかった。


 「ごちそうさま。」


 今何時だろ。まだ13時20分か。5限まであと20分もある。もう教室に戻ってもいいが、多分席は女子グループに使われてる。使い終わってても誰か知らない奴が座って喋ってるだろうし…。

 

 もうちょっといるか。


───────


『――ってのがあったんだよ!やばくね?!』


『そうなん』



 おっ…。誰かが入ってきた。男子2人だ。丁度いい。暇だしこの2人の話聞いて時間潰すか。

 誰か分からないし男子A、男子Bとしよう。


 



 

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