第9話 たった1人の

……!



「えっ…!」



 俺の横には昨日初めて話したクラスメイト、初音がいた。



「あっ、おっ…!」



 やばい。今日学校に来てから一言も言葉を発していないせいで上手く喋れない…!

 しかも急に来たからびっくりもしてる。

 うっ、心臓やばい。


『ん…?寝てる?』


 いや起きてるよ!…いや、じゃなくて!あいさつ!早くあいさつを返さないと…!


 

 「おっおは…!」

『初音ーー!!』


………


『初音ー!パン買いに行こー!!』


 

 俺の渾身の挨拶を遮って登場したのは同じクラスメイトの、……


 いやダメだ分からん。そういえばクラスの人、誰も覚えてないんだった。


初音『葵。』


 あおいさんらしいです。ダメだな俺。話したことがないとしてもクラスメイドの名前くらいちゃんと覚えないと。


 あれ?てかあおいってどっか聞いたような…。


葵『今日限定発売の特製チョコモチふわとろクリームスパイスカレーパンが売ってるんだよー!!友だちに聞いてさ!!早く行かないと売れきれちゃ……』


 何だそのすごい名前のカレーパンは。ちょっと気になるじゃないか。


 あおいさんが俺のほうをちらっと見た。


葵『えっあっごめん、何か話してた…?』




初音『………いや別に。行こ。』




葵『あっそう?ならいいんだけど。

 じゃあ行こ!!買いに行こー!!』


ガラガラ…



 2人が教室を出て行ったとき、



 俺はただそれを見ていることしかできなかった。



 俺の中にあった、たった1つの光が消えたように感じた。


 




 

 





 

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