第11話 盗み聞き~トイレの中から~

A『あっ!そういえばさお前クラスで好きなやつとかいねーの?』


 おっ恋バナかこれは。


B『好きなやつか。…別にいねーかな。』


A『えーマジかよー。ウチのクラス結構可愛いやつ多くない?例えば七海さんとか、雪乃さんとかさ。如月さんも結構可愛いよな。あいつ陸上部のエースだぜ?可愛くて運動できるってもう神だろ!!』


 誰も分からん。当たり前だけど知らんやつの恋バナって全然面白くないな。もっと面白い話してくれないかな。


B『別に。普通かな。』


A『もーお前ほんと女子に興味ねーのなー。

 でもな!何人か言ったが、俺の推しは違うんだよ!』


B『お前モテないんだから、女子なら誰でもいいだろ。』


 おっ、言い方強いな男子B。俺なら泣くぞ。

 

A『おい待てや。言い過ぎだっての。話を戻すが俺の推しは違う!一見すると地味目な子だが、だからこそ輝くものがある!』


B『教室戻っていい?』


 イヤホンつけて寝とこうかな。


A『そう!初音さん!』


………!


B『あー。あのいつも寝てる人か。』


 なっ何…!初音さん…だと…!てかこいつら同じクラスだったのか!


A『そう!いつも寝てるから顔見たことない人もいるだろう。だが俺は見た!下校中、如月さんとその他女子と歩く初音さんの姿を!』


B『2人しか興味ねえじゃねえか。』


 うんうん、それでそれで??


A『あの風になびく長くて綺麗な黒髪。スラリと伸びた足。気だるげそうに前を見つめる虚ろな瞳……』


 それは俺も思う…!


A『それはもうまるで…』


B『お前良かったな。最初にそれ言うの俺で。』


A『え?』


B『なかなかにキモいぞ。』


 それも思う。


A『あってかそれで思い出したんだけど。今日昼休みになった時初音さん見てたんだけど』


B『見んなよ。』


A『初音さん誰かと喋ってたんだよ。しかも自分からそいつの席行って。いつもは自分の席座って友だちと喋ってんのに。珍しいなって思ってさ。』


 あっ。それ俺だ。


B『誰と?』


A『えっと確か……。いや分かんねえや。名前何だっけあいつ。』


「…」


A『ほらあいつだよ。北川の後ろ座ってるやつ。』


B『知らね。』


「……」


A『まあ別に何でもいいんだけど!羨ましすぎる!!名も無き男子!!そこ代われや!!』


 男子Aはトイレ全体に響き渡るような大声で嘆いた。


B『じゃあ先行ってる。』


A『えっ!いつのまに!ちょっと待てってー!』


「………」


───キーンコーンカーンコーン


 あっ、もう行かないと。


ガチャッ…


 少し前がふらつく。何だろう、うまく歩けない。前がぼやけて見える。


 おぼつかない足取りでトイレを出て、教室へ向かう。

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この薄暗い教室で君と あおい @aoiron

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