リアル世界の住人なのにVtuberオーディションに受かってしまった

みにばら。

【初配信】初配信します。【佐藤穂花/ぶいりす!】




佐藤穂花 Sato Honoka


19歳の大学2年生。

清楚で可憐な高嶺の花。

空の写真を撮ることが趣味。

他にも裁縫やネイルなど手先が器用である。


誕生日 11月18日

ファンネーム ほのとも






デビューおめでとうございます!

デビューおめでとう!!

待機!デビューおめでとうございます!

デビューおめ!!

待機!デビューおめでとう!

デビューおめでとう!

デビューおめ!

待機!


チャット欄には「デビューおめでとう」の文字が連なっている。同接人数は約7000人。なかなかの数字だ。新品のPCが乗った机の前。ふかふかの椅子に座り、佐藤穂花は―

緊張により腹を下していた。

配信開始から2分。そろそろ待機BGMを止め、画面を切り替えて話し始めなければいけないのだが…


「…ちょごめんトイレ行ってきます!!」


待機BGMが流れた状態で、画面切り替えもせず、しかしミュートはしっかり外してまさかのトイレ行ってくる報告。


デビューおめ!

デビューおめでとうございます!

トイレつったか今

清楚で可憐とは

緊張かな?

大丈夫か

焦らすじゃねぇか


チャット欄は一気に「草」で埋め尽くされる。そりゃそうだ。配信者人生、大切な思い出となるであろう初配信で初っ端「トイレ行く」だ。先行きが不安でしかない。





5分後―





トイレ長くね?

待機!新人さんトイレ行ったマ?

トイレ長いな

めっちゃ焦らすじゃん

BGM飽きたって

今北!どういう状況?

待機!

待機!


チャット欄が待機BGMに飽きてきた頃、画面に変化が訪れた。BGMは止まり、待機画面である幾何学的な模様の背景は秋の夕暮れ時に見るすすきのような背景に変わった。

画面の左上には現在の時刻。20:08と記されている。画面の右側約3分の1はチャット欄のようだ。そして画面の真ん中には―


「あ、あ、あー…聞こえて、おりますでしょうか?」


―少女がいた。いや、美少女がいた。

栗色のセミロングほどの髪は清楚な三つ編みハーフアップ。白いタートルネックと金色の細いネックレス。そして目を引かれるのは瞳。茜色の瞳は秋の夕暮れを思わせ、どこか人間離れしたその姿に視聴者は息を飲んだ。


きちゃ!

きちゃ

聞こえてるよ~

聞こえてます!!

声かわよ!?

きちゃ!!

ビジュ良っっっ

声綺麗すぎる

聞こえてるよ!

やばいめっちゃ好み

これがさっきのトイレ新人か

綺麗すぎ


「ふふっ。トイレ新人て。なんて不名誉な呼び方されてんだ私」


「えー…皆様こんばんは。此の度、ぶいりす!6期生としてデビュー致しました、新人バーチャルライバーの佐藤穂花、といいます」


「…そして」


「みなさんと同じリアル世界の住人…です」






















リアル世界の住人なのにVtuberオーディションに受かってしまった





















??

は?

どゆこと?

ん?

???

はい?


「トイレでだいぶ時間使っちゃったので自己紹介にささっと参りましょうか」

「よいしょっと…」


画面が切り替わり、プロフィールが映った。



名前 佐藤穂花(さとうほのか)

誕生日 11月18日

身長 165cm

好きな食べ物 だし巻き卵、チーズケーキ

苦手な食べ物 大葉、納豆、辛いもの

好きなゲーム バカゲー。インディーゲームも好き

好きな音楽 ボカロ!!圧倒的ボカロ!!

好きな光の名前 環水平アーク

目標 3Dになってライブしたい!



思っていたよりも身長があったり、甘いものが好きと可愛らしい一面があったり。大葉や納豆が苦手なのは匂いが苦手だからだろうか。インディーゲームが好きというのはゲームオタクは歓喜だろう。環水平アークってなんだ。

色々と質問できるところはある。だがしかし、



問題はそこではない。



え?

リアル?

そうなの?

???

バーチャルじゃないの?

リアル世界??

さすがに嘘か

Vtuberでしょ?

びっくりした嘘か



「リアル世界の住人である」



この一文である。


「Vtuber」とは、


ここ、リアル世界とは違うバーチャル世界という場所の住人が我々リアル世界の住人に、主にインターネットなどのメディアで動画投稿・生配信を行うこと。また、バーチャル世界で活動し、動画投稿・生配信を行う配信者の総称を指す語


である。

つまり、リアル世界の住人である我々に配信や動画投稿をしてくれるのがバーチャル世界の配信者。Vtuber、ということである。

しかし先程彼女―佐藤穂花。何と言ったであろうか。


"みなさんと同じリアル世界の住人です"


はっきりとそう言った。

リアル世界の住人はVtuberになることは不可能だ。リアル世界の方からバーチャル世界にコンタクトを取る手段はない。ましてやオーディションに受かるなんて、そもそもオーディションのお知らせが届くはずもない。それなら嘘と思うのも当たり前だろう。しかし―


「えー…先程も言った通り、名前は佐藤穂花といいます。誕生日は…」


いや続けるな?

コメント見てくれ

矛盾してね?

嘘でしょ

ガチなの??

いやさすがに嘘…

バーチャルじゃないの?


―何事もないように自己紹介を続ける。嘘だとも本当だとも言わずに。


「なんかコメント欄流れ早くないです?あー…」

「先程の発言についてはまた後でにしましょう。今は私の自己紹介を聞いてほしいです」


了解…?

OK!

気になる

嘘じゃないの…?

甘いもの好きかわいい

ボカロいいね!

本当だったらどうやったんだ

身長高!?

インディーゲーム好き最高!!

環水平アークってなに??


視聴者は疑問を持ちながらもプロフィールを見て質問を投げかける。

しかし後で話すと言うということは恐らく嘘ではないのだろうと予想する。


「いっぱい質問ありますね~。順番に行きましょうか。まず身長は…」











そうして自己紹介やタグ紹介が終わり、遂にお待ちかねの「先程の発言」だ。


「最後に…先程のアレについてですね」


来た!

リアル世界の住人についてだな

アレか

きちゃ!

待ってたよ

もうか

きちゃ!!

来たか

やっとか


「実は私もぶいりす!のリスナーでして」


え!?

まじ!?

!?

ぶいりす!なーだと!?

ほなリアル世界か…


「ある日突然ぶいりす!のオーディションサイトを見つけまして」


!?

はい!?

ある日突然…?

???

どゆこと


「思い切って応募したら特に面接とかなく書類審査で受かりました」


!?

はい?

だからどゆこと

詳しく説明


「で気づいたらバーチャル世界の事務所へのポータルがありました」


????

草でしかないんよ

ポータルとは

詳しく説明

だから!!どゆこと!!


「で事務所で配信してる今にあたります」



チャット欄は大草原…ではなく。質問で溢れかえっている。


どうやってオーディションサイトを見つけたの!?

なんで書類審査だけで受かったの?

ポータルって何!?


しかし大体の質問はオーディションについてではなく―


バーチャル世界ってどんなだった!?

綺麗なとこなの?

めっちゃ文明発展してたりする?

ライバーさんにあったの!?いいなー

天使とか神とか人魚とか妖精とかもいるんでしょ!?

うらやましすぎる

まじで知りたい!!教えて!!


―バーチャル世界への憧れからの質問だった。

やはり人間、誰も見たことがないものを知っている者がいるなら教えてほしいと思うのだろう。

ここにいる視聴者は随分と、純粋で知的好奇心旺盛な者が多いらしい。


しかしもちろんまだ、


嘘だろ

証拠がない

騙されんなって


という輩もいる。


「わっ!!コメント欄はっや…てか同接人数2万人超えって。すごいな」

「まあ嘘だって思う人もいると思う。信じてくれる人のほうが多いとは思わなかったけどね」

「私だって今のこの状況は夢か何かだと思ってるし…」

「ぶっちゃけ割とわけわかんないし。なんなんだろうね。これ。やっぱり夢かな」


いつの間にか同接人数は2万人を超えていた。なんなら3万人いきそうだ。

少し不安そうな表情をする彼女に―









「チャンネル登録したよ」











―俺はついそう打ち込み、送信マークをクリックした。


「…!!」

「…っチャンネル登録、ありがとう!!」


彼女は笑顔でそう言った。

…届いた。

ただのリスナーである俺の文章が。

彼女に。届いた。







届いた。










嗚呼。これが…推しができる瞬間というものか。

途轍もない快感。頭の天辺から足の爪先まで電流が走ったような。

突然「俺」という自我が芽生えたような。












最高だ













この配信は3分前に終了しました



気付けば画面にはそう表示されていた。

推しができるという謎の快感に体を震わせていた間に終わってしまったようだ。

俺はゲーミングチェアに座り直し、真ん中の巻き戻しボタンをクリックした。


もう一回見よう。始めから、しっかりと。

そう思えるほどに、彼女のことを推してしまったのだ。















第一話 推しとリスナー






























環水平アーク

大気中の氷粒に太陽光が屈折することで、ほぼ水平な虹ができる光学現象のこと。通常の虹が太陽とは反対方向に見えるのに対し、環水平アークは太陽と同方向に見える。水平虹、水平弧ともいう。





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リアル世界の住人なのにVtuberオーディションに受かってしまった みにばら。 @misaki1218

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