SPEED.7 本物の棲む時間
『本物』を見たこと、または聞いたことがあるだろうか。それは首都高を走る族のこと。雰囲気組は楽しむだけの人間としか見なされない。本物は違う。
車を極限までチューンして、首都高で法定速度以上を出し、爆走する。それが『本物』だ。
雰囲気組はそこそこのチューンしかせず、最速だの、俺の車は速いだの言っている。
それは『本物』に会っていないだけ。中途半端なエンジン、空気抵抗を考えず、見た目を変えるために付けたウイング。そして雰囲気組だけでの勝負。それだけで勝ったと思う奴ら。
本物の棲む時間にそんな奴らはいない。本物が棲んでる時間帯はまさに夜中。そして本物同士でのバトルが繰り広げられるのだ。
そして、そしてその時間帯に稀に現れる雰囲気組が目にする物が本物。そして本物のことを自分と同じ雰囲気組と見てバトルを仕掛ける。
その雰囲気組達はバトルをした後にいろいろなことを考える。まず1つ目に考えることは『バトルをしなければよかった。』と考え、今まで自身が最速だったということが間違いだと思う。
そうして初めて自分はただのスポーツカー乗りだっただけなんだとも気づいてしまう。
そこから降りる人間も少なくない。中途半端ではあるが、せっかくチューンした車を売り払う人もいれば、そのまま走り続ける人もいる。
またはそのことに気づかず、本物に最後まで挑み続け、『エンジンブロー』という最悪な結末を迎える人間もいる。そして涼斗や凜、菜々子は車を極限までチューンし凄腕を持ち合わせた。
『本物』であることが証明されるのだ。
「なあ〜。菜々子。お前の33ってもうチューン終わったの?」俺は33のエンジンを少しいじったことがあり、そこから何も変わっていない。
「うん。だってこれ以上エンジンいじっちゃったら公道じゃ走れなくなっちゃうかもしれないし、だからやめたと言うか終わったんだよ。」
彼女はそう言って俺の顔を見上げた。
夜中の1時すぎ。さあ“本物の棲む時間”だ。
「行く時間だよリョウくん。」「ああ、俺達“本物”の時間だな。」俺達は車を出して走り出す。
首都高の本気組は山手トンネルの中で、200マイルを流してたと平気で言う。それを聞いた一般人は320km/hを普通と捉えることは無理だ。
「ヴォォォォ」「オゥゥゥゥ」「ギャャーッ」
トラックの方が多く港に向かって走っている。
横羽線の緩やかなコーナーを300km/hクルーズで抜けていく。「おもろいな。この時間は。」
白いシビックが走っている。この時間ではあまり見ないがオーラがある。2018年式のシビックタイプRだ。その横を250km/hで抜いた。
「34か。走り屋もどきなのか何なのかは知らんが見せてもらおう。ワイスピ仕様の34よ。」
「こいつ。来るのか?確かに乗りやすくていい車だけど、自分のものにできてんのか?」
菜々子のことを差し置いて
そんなことを言ってるのも知らず、どんどん前へ進んでいく。「シュパパパパーッ」
「くっ。この34バカ速いじゃないか。見た目を良くしてるだけなんじゃねーのか?アクセルを強く踏んでも離れない。一体どんな奴が運転してんだ?」オレは徐々にじれていった。
そして隣に並ばれた。オレは顔を見る。「若い!
そしてイケメンじゃないか。腹立つな。こんな奴が速いなんて!!オレのプライドが許さん。」
アクセルをさらに踏み込み、タコメーターが9を指す。「くそったれが。これでもだめか。」
「バァン!!」マフラーから炎が出てその勢いでオレのシビックから離れていく。完全に。
完全に雰囲気組だと思っていたオレの間違いだったかもしれない。これが“本物”なのだろう。
そしてあの34は見えなくなってしまった。「完全に消えちまったな。」みっともなかった。
あのシビックはよくわからんが雰囲気組とは少し違った。将来的には俺らのような天才首都高ランナーになれるだろう。知らんけど。
頑張れよ。シビックの兄ちゃんよ。俺達に追いつけるその日が来るまで仕事を死にものぶるいでやり続け、その金をすべてそのシビックに注ぎ込むことで首都高ランナーになれるんだ。
俺はそんな事を考えながら300km/hで新環状右回りを走っていたのだった。
首都高を本物が本気で走る時間帯。
それを『本物の棲む時間』と言う。
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