SPEED.5 ハコスカのためなら

今日も湾岸を走っていた。少し、疲れたので休憩がてら市川PAに入って、車を停める。


すると、黒いハコスカが停まっていた。「へぇ。今でも走ってるんだな。でも、品川55って親父か母親の車だったのかな。」すると、缶ジュースを持った女性が現れた。


「そんなにジロジロ見てあたしの車になんか用?。」うわぉ、こりゃ怒らせたらあかんやつ。


現れたのは30代くらいのお姉様。「あ、いやそのハコスカが珍しくてつい……。」俺は正直に言う。「そ。別にいいけどね。ごめんね。怒った感じで言っちゃって。」その女性は謝ってきた。


すると、997がやってきた。「ちょっと!!速すぎるって。もっとスピード落としてよ。」菜々子だ。どうやら250km/hでスラロームしていた時に付いてこられなくて機嫌が斜めっている。


「ハコスカじゃん。かっこいいね。何年式?」菜々子は目に入ったハコスカの年式を聞いた。


「確か、1972年式だったと思う。軽量化をしてエンジンにも手を加えて780PSまで伸びたの。」


お姉様もクルマが好きなのか専門用語がポンポン出てくる。「ほんとはきみの乗ってるR34に乗りたかったんだけど高くて乗れなかった。一生懸命中古車市場を念入りに探した。でも、見つからなかった。だからってわけじゃないけど、父からハコスカを譲り受けたってこと。」


お姉様はハコスカのボンネットを撫でながら言う。「一緒に走ってくれませんか?」「え?」


俺は思い切って彼女に言う。「俺達は後ろから行くので先に先行するカタチでお願いします。」


「わかった。楽しく行きましょう。」彼女も了承してくれて、嬉しそうにハコスカへ乗り込む。


「行くぞ。菜々子。」「あ、うん。」俺達もそれぞれ自分たちの車に乗り込む。「ヴォウヴォウ」


とりあえず流す感じで走った。コースはすべてお姉様に任せ、ついて行くようにした。


「なるほど。大井でUターンして環状に戻るのか。」「コク」「ヴォォォォ」「オゥゥゥゥゥゥ」


そして、芝浦PAに入った。「久しぶりにつるんで走ったわ。ありがとう。とても楽しい時間だったわ。」車を停めて、彼女は言う。「俺らも楽しかったですよ。」俺達もお礼を言った。


自販機コーナーに行ってくると言って菜々子は歩いて自販機コーナーに向かった。「私も買ってこようかしら。あなたも行きましょ?」突然誘われて俺も自販機コーナーに行くことにした。


「俺も走り屋が憧れで今に至ってるんですよね。」俺は口を開いた。「あなたが走り屋になった理由わけを聞いても?」「はい。是非。」


俺がスポーツコンパクトに憧れたのは紛れもなく、ワイスピのせいだろう。あの映画を観なければ、きっとスポコンには興味も示さなかったと思う。その映画を見たのは、俺が5歳の時だ。


当時の俺は車が好きだったのと、親父からの英才教育で車の名前、型式を叩き込まれていた。


例えば、俺の乗っているスカイラインGT-Rなら初代 ハコスカ→2代目 ケンメリ→3代目 R32型→4代目 R33型→5代目 R34型などがある。


他にも搭載エンジンまで教えられた。ハコスカとケンメリはS20エンジン、余談ではあるが同時期に出たS30型のフェアレディZもS20エンジンが搭載されていた。R32からR34は車好きなら一度は耳にしたことがあるRB26DETTエンジンが搭載されている。このように資料、チューニング雑誌などを読まされ叩き込まれたのだ。


そして度肝を抜かれたのが11歳の時。そう、ワイスピの2作目、『ワイルドスピードX2』を見た時だ。『ブライアン、今夜走れるか?』とテズが電話をし、『ちょうど金が切れたところだ。』とブライアンが返す。『4分で来い。』『3分で行く。』と電話を切り、ガレージの扉を開ける。そこで登場したのが、今、俺の愛車であるR34だ。そのシーンを観た時、俺はこの車が欲しいと思った。ネットで探し、親父の保証で34を手に入れ、チューニングをして、今走っているのだ。


「その話が今の34物語なのね。すごいと思うわ。一つのことで一つのことにのめり込むことができるなんて。」彼女は俺の話を聞いて感動したらしい。「いえ、そんな。」「私達、気が合いそうね。」「そうですね。もっと走りたいと思いました。」そう言って夜空を見上げた。











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

湾岸戦走 葵水萌 @ae86gt-apex

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ