SPEED.2 ゆるふわ系おばさん

今日は6月28日。横浜みなとみらい。俺の地元でもある。今は夜の11時56分。日付がもう少しで変わる。しかし、まだ交通量が多い。


「ヴヴヴヴヴ」「コク」「ヴォォォォォォ」

「アラ?この34ってブリットのマシンじゃない?」私はその34についていくことにした。


後ろから1台、ポルシェだろうか?丸目の車が張り付いてきている。大黒PAに入るとその997は隣に並ぶようにして停車した。誰だろう?


「こんばんは。リョウ。久しぶりだね。」声をかけてきたのは菜々子だった。「なんだ、お前か。」


彼女が乗っているのは911(997)GT3RSで結構速い。「んで、ゆるふわ系おばさんが俺に何の用?」「なんだって?もう一回言ってみようか?リョ〜ウ〜?」「いや、あの言葉の綾であり…」


彼女は22歳なのだが、おばさんと言われることを嫌っているようだ。よくしらんけど。


「罰として34運転させてもらうから。」と彼女は言った。仕方のないことだとは思ったが流石に自分の愛車を他人ひとに運転させるのは少し、気が引けた。分かる人もいるだろう。


「いやぁ、それはちょっと無理……かな。」

「何が無理なんだよ。おばさんって言ったの誰だっけ?」「いや、その、あの、俺、ハイ。」


俺は彼女の技『笑顔罵倒』に見事押し通されてしまった。結局、34の鍵は菜々子の手に渡った。


「はい。これ997の鍵。壊さないでよ?」

「俺、いつからお前の子どもになった?」

「昔からだと思うけど?」


そして彼女は俺の34に乗ってエンジンをかける。「うっひょー、このネオン管たまりませんな。」「うるさいよ。早く行け。」


「ヴォォォォン、ヴォォォォ」「コク」

997って6MTだから34と似てるんだよな。やっぱり5MTとか4MTはちょっと違うんだよ。


815馬力なので俺の34には少し置いてかれるようなカタチになっている。もう少し改造しろ。


時刻は夜中の3時51分。もう少しで夜明けとなる。俺達は大井PAにいた。「ポルシェなんかいつ買ったんだっけ?」「いつだったかなぁ?」


3年前ぐらいだと言っていた。20年以上前の車だが、キビキビ走れている。「この34のネオン管くれない?」「は?駄目に決まってるだろ。」


このネオン管がなければブライアン仕様の34を表現することはできない。ネオン管があるからこそブライアン仕様を表現できるのだ。


「ケチだな〜。ガレージに1つや2つあるんじゃないの?」「あるけど、やらな…あ、」「あるんだね。じゃ近々お邪魔するね。」「鍵閉めとくわ。」


まんまと罠にはめられて口を滑らせてしまった。「そういえば、お姉ちゃん元気?」「りんちゃんのことか?あの人なら元気でやってるよ。」


まぁ、昔から公園とか家で遊んでたりしたしな。俺だけじゃなく、あいつの『姉』でもあるのかもしれない。「さっき、ネオン管がどうのとか言ってたけどお前も買ったら?」俺は言う。



「おう、たまにはいいこと言うじゃん?でもね?“お姉ちゃん”にはお金がないんだよ。」


「それなら探してやってもいいぜ?」


うちはJRT FACTORYの代表だからな。車の事ならなんだってお任せなんだよ。それがうちのモットーなんだ。「まじで?やった。じゃあスカイブルーの色でよろしく。」「わかった。探すわ。」



しかし、スカイブルーの色のネオン管なんてあるだろうか。あまり見たことがない。


次の日の朝、菜々子がうちのショップにやってきた。「へぇ、こんな感じなんだ。あ、そうだ。

昨日ね、スマホでアルバム見てたら懐かしい動画出てきてさ。これ見て。」見せられたのは、1つの動画である。再生ボタンを押してみた。


「りんちゃ〜ん。何組?」「当ててみて。」「9!」当時の俺はとりあえず大きな数字を言っていた。「違いまーす。」「8!!」その後俺は後ろに体を倒した。


そして、りんちゃんの開脚した間に寝っ転がる。「可愛いなぁ、もう。」その様子を見下ろしてりんちゃんが言った。



こういうしょうもない日常を撮った動画であ

る。俺にとっては黒歴史だ。


「この動画お前が撮ったわけじゃないよな?っていうか誰だよこれ送ってきたの。」「リョウのママ。」まーじで?やばすぎるあの人。勝手に人の黒歴史送ってんじゃねーよ。「こん時は可愛かったのに、今はとんでもないクソガキになりやがって。」「お前は一体誰なんだよ?!」


「さぁ。わかんないけど?」


それぞれの愛車の前で変な話をしていたら、

いつの間にか昼過ぎになっていたのだった。




















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