レイラ×カイン ①

 それはあまりに柔らかく、暖かな記憶だった。


 南米と米帝の国境近辺で、カインは生まれた。両親は分からない。道に産み捨てられたのを、たまたま通りかかった夫婦が拾い、育てた。


 同世代の子供達と育った。お腹が空けば、市場で幾らでも安い果実が手に入る。よく働き、よく遊ぶ。義父は自警団を名乗っていた。近くの街にも溶け込み、性善を当たり前に享受する。

 小さいけれど愛おしい村、団結力の強い住民、優しい義両親。


 初めてナイフを握ったのは三歳の時だった。

 

「コイツで村を守ってくれ。お前も自警団の仲間入りだ」

「俺も勇者になれる?」

「ああ。カインには戦士の素質がある」


 カインは喜んで戦闘訓練に励んだ。この国は警察が機能不全に陥っている。自分がやらなければ、大切な人を守れない。


 誰もが正義を率先して行う姿に、捨て子の彼は誇りを抱いていた。

 しかし――

 だと知ったのは八歳の時だった。


 義両親は、テロ組織の幹部だった。


 錆び付いた大型トラックが土埃を引き連れながら、何台も村に入ってくる。何処からどう連れてきたのか、汚い身なりの子供が沢山乗っていた。


 傷だらけの少女と目が合う。鋭い眼光とつり目がちの瞳。アジアだけの美しさを纏った彼女は、己の運命を受け入れていた。殺しに躊躇いのない、捕食者特有の目つき。何度も命を奪われかけた者の顔。

 

 彼女は名を聞かれ「レイラ」と、子供とは思えない声色で答えた。

 

 それを見た時、カインは愕然と『ああ、俺はテロリストなんだ』と思った。握ったナイフに力が篭もる。彼は取り憑かれたように戦闘訓練へのめり込むようになった。

 気づいたら強さに反比例して、感情に蓋をするようになっていた。


 ――兵器に感情なんて要らない。

 

 笑わなくなったカインを、義両親は心配しなかった。むしろ、より戦士に近づいたと喜び、ご馳走を振る舞ってくれる。

 トラックの子供は缶詰を食べているのに。


 誰を憎めば良いのかわからない。

 俺は愛された。確かに愛されていた。

 だから、苦しかったんだ。


 レイラ、お前の隣に俺は立てるか? 立つ資格はあるか?


「起きて! カイン、次が来る!」

「ウ……ゲホッ、ゲッ、うう……」


 目の前を歩いていた兵士が地雷で吹き飛んでから、どのくらい時間が経っただろうか。

 爆風でしこたま飛ばされたカインは、大木の幹に頭を打ち付けて気絶していた。

 

「医療キットを出している余裕がないの。敵に囲まれてる! この森から抜けるのよ、早く起きて!」

 

 ぐるぐると回る空を見つめていたカインは、慌てて首を振った。爆音で耳がやられたが、奇跡的に軽傷で済んだ。腰のホルスターに手を当て、9ミリ銃の残弾を確認する。

 

 二人は東欧戦争の最前線にいた。

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