第8話 物乞い(2)

秋葉原、とあるゲーム屋前ーー


怪しい男1「弐恩院降りてこねーな」


怪しい男2「てか、裏口から逃げてたりしねー?」


怪しい男3「いや裏口ねーし」


リョウ「お疲れ様でーす」


男達「「??」」


リョウ「あ、これどーぞ」


缶ジュース「スッ」


男1「あぁ、サンキュ」


男2「気が利くじゃん」


リョウ「いえいえ。皆さん弐恩院さん張ってるんですよね?」


男3「そうだけど、てかお前誰?」


リョウ「いや、皆さんがお疲れかと思って、ジュースの一本でも差し入れろと言われてきました」


男1「あーね。流石タカさんだわ」


男2「タカさんやさしーっ」


リョウ(タカさんってのが弐恩院さんをつけ回してる奴らのリーダーらしいな)


男3「いやだからお前は誰なん?」


男2「なー、そのコーラとコーヒー交換せん?」


男1「なん。コーヒー飲まんの」


男2「ちがくてさぁ。無糖はちょっとな……」


リョウ「あっ! 気が利かなくて。持ってきます」


男2「ほんと? 悪いね」


自販機「ぴっぴっぴっぴっ」


リョウ「…………」


自販機「がしゃんがしゃんがしゃん」


リョウ「コーヒー微糖三本買ってきました!」


男2「おーおー、サンキュー」


男3「いや、俺は別に欲しいなんて言ってないけど」


リョウ「あっ、すみません! でも買っちゃったので……」


男2「なら俺貰おうか?」


男3「いや、貰うけども」


リョウ「あ、コーラを忘れてた!」


自販機「ぴっぴっぴっぴっぴっ」


自販機「がしゃんがしゃんがしゃんがしゃんがしゃん」


リョウ「コーラとオレンジジュースとコーンポタージュ三本ずつ買ってきました!!」


男1「やば!」


男2「てかこんなにいいの?」


リョウ「タカさんからお金は貰ってますんで!」


男3「ふぅん。ならさ……グレープの炭酸のやつ買ってくれね?」


リョウ「いいっすよ!」


男1「あ、俺お茶ほしい」


男2「俺もお茶」


リョウ「はい!」


男1「袋とか無いの?」


リョウ「無いです!」


自販機「ぴっぴっぴっぴっぴっぴっぴっぴっ」


缶どさーーーーーっ!!


男1「いやこんなに持てねぇわ! ははは! ちょっと座るか」


男2「だな! よっくらしょ」


男3「いちにぃさんよん……やべ、十本もある!」


リョウ「すみません! エナドリも買ってきました……ああっ!」


こけっ

バラバラ!

ごろごろごろ……


男達「何やってんだ」


男1「拾ってやるよ」


男2「これとこれ俺んな!」


男3「おいちょっと欲張るなよ!」


リョウ「あれ、もっとあったんですけど……転がってっちゃったかな」


男1「マジ? えーっと……あっ、あっちにあるぜ」


男2「拾ったやつのものー!」


男3「あ、ずり!」


リョウ(……GO)




ミオ「合図が出た。行きましょう」


弐恩院「……ええ」




男1「おいおいこんなに缶抱えて動けねーよ(笑)」


男2「いやー、タカさん太っ腹だな!」


男3「あれ? そういや弐恩院って誰か出るとこ見た?」


男1「いいや? まぁゆっくり待ってようぜ」


男2「そうだな、兵糧も入ったし」


男3「さっきの小僧に飯買ってこさせるか、おーい」


男1「あれ、あいつ居なくなってる」


男達「……」


アホな男達「………まぁいっか!」




リョウ「お待たせー」


弐恩院「あっ……」


ミオ「リョウ! だ、大丈夫だった?!」


リョウ「平気。何もされなかったよ」


ミオ「はぁーっ……。見てるこっちがビビったし」


ミオ「……度胸あるじゃん。見直した」


ミオはリョウの腕を小突いた。


リョウ「そうか? まぁ、ドミニオンやってるからな」


ミオ「関係ないでしょ……」


リョウ「大アリです。てなわけで弐恩院さん、もうあいつら追ってこれないから。安心して」


弐恩院「……ねぇ」


リョウ「はい」


弐恩院「今の作戦はどうやって思い付いたの?」


リョウ「あっ、ドミニオンに『物乞い』ってカードがあるんですよ。手札に銅貨を三枚獲得するって効果のアクションカードで、一見得してるんですけど、実際はデッキの中の銅貨が増えて次第に動けなくなっていくんです。動けなくするってのがポイントで……」


弐恩院「缶ジュースを銅貨の代わりにしたってわけ?」


ミオ「そっか。缶ジュースを沢山受け取ったら、手が塞がって動けなくなるってこと?」


リョウ「そう。でもホントだったら見張りしてるのに缶ジュース何本も受け取らないよな。でも、一度使ったら何度使っても同じだってことで、物乞いを使い続けてしまうのがプレイヤーの性ってやつで。缶ジュースも最初は一本、もう一本、更に一本……と受け取っていくうちに断るって発想がなくなるんだ」


弐恩院「人は一度選んだ選択肢を、絶対のものとして過信してしまう……。一貫性の法則ってやつね」


リョウ「まぁ、そんな感じです」


ミオ(リョウ……かっこいい)ドキドキ


ミオ「じゃあ、弐恩院さんも助けたことだし。私達はこれでお別れってことで」


リョウ「そうだな」


弐恩院「お待ちください」


ミオ「?!」


リョウ「まだ何か?」


弐恩院「男三人を前にして怯まない度胸、柔軟な作戦を思い付く頭脳、そして何よりドミニオンへの理解……」


弐恩院「貴方、興味深いわ」


リョウ「はぁ、どうも」


ミオ(何か、不味い予感)


ミオ「その、私達二人で秋葉原を回ってる途中で……」


弐恩院「割り込みご無礼を承知の上で」


弐恩院「リョウさん、よければ私と交際してみませんか?」


ミオ「えっ?」


リョウ「えっ?」


弐恩院「にこっ」


ミオ「えぇ~~~~~っ?!」




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