第7話 物乞い(1)

秋葉原、ゲーム屋にて……


リョウ「結局『冒険』はお預けかー」


ミオ「ねぇ、三万円……」


リョウ「あ」


茶封筒「三万円」


リョウ「やっぱ返した方がいいよな……」


ミオ「え? 貰っちゃいなよ」


リョウ「いいのか?!」


ミオ「さっきの人、見た目どうみてもやんごとなきお嬢様って感じだったし、はした金なんでしょ。……あ、アキバだしそういうコスプレ?」


リョウ「うーん……そうだな、コスプレか……。松葉杖もかな?」


ミオ「それは流石にマジで怪我してんじゃん?」


リョウ「杖つきながらだとドミニオン持ち帰るの大変そうだよな……あ」


謎の女「……」


リョウ「さっきの人だ」


謎の女「……まだ何か用?」


リョウ「あ、その……ドミニオン」


謎の女「……」


リョウ「俺持ちましょうか? それ」


ミオ「ちょっと、リョウ……持つってゆーか、お店の人に発送とか頼んでみたら?」


謎の女「発送のサービスは無いそうよ」


ミオ「あ、そなんですか……。いや、でも、さっきみたいにお金渡したらやってくれるんじゃ」


謎の女「なにそれ。やってないサービスを強要するなんて最低の客じゃない?」


ミオ(あ、そういう常識はあるんだ……)


リョウ「じゃあ尚更持ちますよ」


謎の女「私の家まで?」


リョウ「えっ?! いや、下の階まで……。あ、やっぱ駅まで運びましょうか?」


ミオ「リョウ!」


リョウ「困ってるならほっとけないだろ」


ミオ「だけど……」(アタシとのデートは……?)


謎の女「別に困ってないわよ」


リョウ「そ、そうですか」


謎の女「……いえ、じゃあ……一つ訊いても?」


リョウ「あ、はい!」


謎の女「店の外に男が何人か居なかったかしら?」


ミオ「あ、あのヤバそうな人達? まだいるかな」


窓をのぞくと、依然として入り口に怪しい男達がたむろしている。


ミオ「いた!」


謎の女「でしょうね……」


リョウ「何か訳アリですか?」


謎の女「え? まぁ……そうね」


謎の女「あの方々は私のこと待ち伏せしてらっしゃるの」


ミオ「ええっ!! マジでヤバイ奴らですか?!」


リョウ「三人もいますね。見つからないようにビルを出たいんですか?」


謎の女「出来ればそうしたいわね」


ミオ「じゃあ、アタシらで注意を惹きますから、その隙に逃げるというのは?」


謎の女「この足じゃ逃げられないのよね」


ミオ「あ、すみません……」


謎の女「いえ」


リョウ「……男達から逃げたい。けど走って逃げるのは無理、か」


ミオ「……どうする? リョウ」


リョウ「……もしこれがドミニオンだとしてさ」


ミオ「うん。うん?」


リョウ「向こうは三人。つまりアクション権が三回。こっちは彼女を除くと二人。つまりアクション権が二回。出力では負けてる」


ミオ「それ、ドミニオンで例えないと駄目?」


謎の女「いいから、続けて」


リョウ「でもアクション権はないけど、こちらには貴女から……ええと」


謎の女「弐恩院」


弐恩院「弐恩院におんいんと申します」


リョウ「弐恩院さん。俺には弐恩院さんから貰った三万、つまり金量があるわけだ」


ミオ「はぁ」


リョウ「アクション権が少なくとも、金量とあとは手札さえ増やせればドミニオンは勝てる。そういう戦法を俗にステロ戦法って言うんだよ」


ミオ「ドミニオンならね」


リョウ「でもステロ戦法には弱点もある。その弱点が顕著なのが『物乞い』を使ったステロ戦法だ。瞬間的な金量を上げる代わりに銅貨をデッキに増やし続けて、最終的にはデッキが動かなくなってしまう。デッキが動かなくなってもドミニオンは負けだ」


リョウ「と、いうことはだ」


ミオ「ということは……?」


リョウ「弐恩院さんが速く動けないなら、あの男達をもっと動けなくさせればいい」


弐恩院「つまり、ドミニオン風に言うとどういうことなのかしら?」


リョウ「奴らに『物乞いステロ』作戦を仕掛ける」



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