"Do Peaceful Days Really Last?" (1 – 3)
汚れた楽園
※後日談的な日常回3編の章。天気模様は曇り無し?の晴れ。
※『救済』もお休み中。多分いい気分でバカンスしてます。
・・・
対魔獣組織の魔法少女は常に魔獣と戦ってるわけじゃないし、そもそもいつも組織の仕事をしているわけじゃない。
当然、その日の仕事が終われば休みで、休日だって存在する。その仕事が終わるのかどうかは別問題として。
戦う少女たちはそんな一瞬一瞬の束の間に、心身を休めている。友や仲間、大切な人たちと。
その時間は歪んだ青春でありながら、かけがえのない時間。
彼女たちが普通の少女に戻れる、唯一の瞬間。
そんな非日常と非日常の挟間の、穏やかな日常のお話。
・・・
魔法少女には覚醒魔法少女と非覚醒魔法少女がいる。
これは要するに固有魔法の有無であって、両者の違いはかなり大きい。
固有魔法はインチキ効果のオンパレードだから、あるかないかでは戦力的にも天と地ほどの差があるわけだけど……。
あ、いや、たまに基本魔法だけで前線に立つやばい人もいるけどそれは例外です。
例えばお隣の第八部隊には"尖兵"って異名の、なんとかであります!って変な喋り方する激ヤバ非覚醒魔法少女がいたり。
というか固有魔法なしで第五等級相当ってどういうこと……?
いやまぁそれはともかくとして、私たちは戦闘ばかりしているわけじゃないから、当然のことながら普通の仕事してる時間の方が長い。
だから……固有魔法に覚醒しているとちょっと困る事情があるというか……。
固有魔法って……使おうと思わなくても使われてしまうから。
つまりどういうことがというと、例えば我らが隊長の『浄化』の場合、何もしなくても自動浄化で勝手に周りが綺麗になる。
じゃあ私の場合は?
何もかも穢して汚す、『汚染』の場合は……?
そう、つまりそういうこと。やっぱり私は穢らわしい存在なんだ。
私の存在が許されるのは、ひとえに隊長がいるおかげ。
隊長の『浄化』によって、まるで『汚染』された私は普通の人間みたいに振る舞える。
隊長がいなければ私の居場所なんかどこにもなくて、隊長がいる場所が私の居場所。
だから私たちは大体いつも一緒にいる。副隊長室は使わず同じ隊長室で仕事してるし、隊舎で割り当てられている居室も、本来なら私たちは幹部だから個室なのに、同室だ。だから寝る時も隊長の部屋で一緒。
隊長には申し訳ない気持ちでいっぱいなんだけど、私が気兼ねなく普通に生活するためには隊長のそばにいないといけないから。
「私たちの部屋に現着……なんちゃって」
「ふふ、状況開始ですか?」
「いや……隊長の部屋で何の状況が始まるんですか」
珍しく、今日の私たちはどっちも休みだった。
一応私たちにもお休みというのは存在している。当直非番休日のローテーションって感じ。
といっても慢性的に人員不足だし魔獣警報が鳴ったってのに休んでいられるかって言われたら中々そんな人いないだろうから、休みも実質的には非番なんだけど。
これって実際はあれだよね、法律的に労働時間がどーのこーのな感じの建前的なやつ。
一応法律上、魔法少女の報酬は魔獣討伐に伴って与えられるから組織上は休みだったとしてもタダ働きにはならない。
むしろ残業的な認定がされるから二重払いみたいになっていつもより多い。いや、私たちお金貰ってもそんな使い道ないんだけどね。
そう、魔法少女って実は結構高給取りだったりする。
でもみんな当然ながら未成年なわけで、そんな大金をポンと渡されても困る。だから組織にお金を積み立てる制度があって、そこに預ける形になってるわけだ。
引退したら支払われる、いわば退職金制度的な奴。たとえ本人が受け取れなくても、家族に支払われる。
……私には家族はいないも同然だけど。ちょっとそれはなんかなって思う気持ちもほんの少しはあるけど。
その分を差し引いてもある程度まとまったお金がもらえるので、私たちがお金に困ることはほとんどない。
だからたまの休みには買い物したり、娯楽を楽しんだりできる。こういう息抜きってホント大事。
例えばおしゃれの為に服とかコスメを買ったりとか。
実質非番みたいなものだからプライベートも隊服のままって人は割といるけど、でもやっぱり女の子なのでおしゃれくらいはしたいもの。私服くらいはこだわりたい。
最悪、万が一の時はその上から魔力で作った防御用の服を着ればいいし。……まぁ戦闘になったら大抵は中の服も傷んでしまうけどね。しょうがない。
で、今日は二人とも私服でお出かけしてたわけなのだ。
私のファッションはキュロットスカートに、ちょっとおしゃれ系のぶかぶかパーカー。髪型にこだわりはないのでフードは被ったり被らなかったり。
そして隊長は……タイトなジーンズにピタピタなツーピースニット。
いや、めっちゃ身体のラインを強調するようなデザインなんですけど、えっち過ぎません? 露出度低いけどおっぱいとおしりが大変えっちですよ?
これはグラビアアイドルかな……? 正直そんじょそこらのグラドルさんより大変えっち。
組織の広報はそういう仕事をシャットアウトしてるから無いけど、絶対覇権を取れると思うんだよね。写真集が出たら絶対に私は買います。
そんな大人体型の隊長と並んで歩くと、ほんと私の子供体型が際立ってしまう。
待ちゆく人の視線もほぼ隊長に集まるし、絶対えっちな目で見られてたと思う。
でも隊長は何が恥ずかしいと言いたげに堂々としたものだ。すごい。
認識阻害があるとはいえ、自分に自信が無いとこうはいかないんだろうな。私にはできそうにない。すごい。
……またこの人、性女って言われてるんだろうな。それはちょっと嫌だけど、納得でしかない。
「歩き回って少し汗をかいちゃいましたね……お風呂の準備してきます」
「そうですね、宜しくお願いします」
そういえば、私たちのお風呂事情は普通の人とちょっと違う。
隊舎には大浴場があって隊舎住みの人はそこを使うのが普通なんだけど、隊長用の居室にはシャワー付きの個室風呂が付いている。けっこう広い。
いま倉庫状態になってる副隊長用の居室にお風呂は無かったけれど、これが隊長特権ってやつなのかな。
それで、私は魔法属性のせいで大浴場は使用できないので、非常に恐れ多くも隊長専用のお風呂を使わせていただいている。
いつも先に私が入って、その後に隊長が入って、隊長が出てくるのを待ってる、みたいな感じ。
なぜか新人のだいぶ早い時期からこんな特別待遇を受けてるけど、本当にいいのかなぁ……。
まぁ、私の『汚染』は気をつけて抑えてるつもりでも多少、お風呂場を汚してしまうから隔離的な意味合いなんだろうけど……。
湯船に浸かると大量の汚水が生まれるから基本はシャワーで済ましてるものの、それでも浴室は多少汚れるし、掃除が大変だからね……。
うん……昔はホントまさしく汚物みたいな扱いだったから……ふふ……今思い出してもつらかったな……。
そんな私が汚した後のお風呂を使ってもらうのは死ぬほど申し訳ないけど、隊長がそうすべきといったので従っている、というだけ。
いや……属性相性的に、本気でやらない限り私の『汚染』じゃ隊長の『浄化』を上回らないから、隊長を汚すことはないってのは分かってるんだけど……。
絶対に気分的には良くないとおもう。とにもかくにも申し訳ない。ほんと悪いことしてるみたいな気持ちになる。
一応、一応ね、私もお風呂出る前に掃除はするんだけど、このあと隊長を待たせてると思うと時間的にも中々きついし、そもそも魔力現象的な汚れだから完璧に綺麗にするには……。
それにどうせ魔法で浄化できるのだから無駄で必要ないとも言われてて……いや、言われても掃除はするんだけど。
閑話休題。
お風呂の準備を済ませて隊長と一緒にソファに座り、ダラダラしながらテレビを見てたら軽快なメロディーとともに給湯器くんがお風呂が沸いたことを知らせてくれる。
「あ、ではすみません隊長、お先にお風呂いただきますね」
立ち上がってお風呂グッズを用意して……。
何故か隊長も無言でスッと立ち上がって同じく用意を……。
……?
「あの……隊長?」
「はい。どうかなさいましたかヨドさん」
「いや……え? 私いまからお風呂……」
え、なんか普通に脱衣所まで来たんですが、え?
「はい。ご一緒しませんか?」
「え……、な……、そんっ」
な、そんなご褒美……じゃないっ、流石にそれはちょっと……!?
なぜ……? なぜ今回急に……!?
いやまて、まて私。冷静になれ。何か理由があるはずだ……。
単に私とお風呂に入りたいだなんて理由あるわけないし、きっと何かこう、私のせいで何か、隊長がこんな罰ゲームのようなことを決意してしまうような理由が……。
あれかな、やっぱり今まで待たせすぎだった……? 掃除に時間かけすぎてた……?
「すみません……?」
「? なんのことでしょうか?」
「あ、いえ……いつもお待たせしてましたし……」
「それは構わないのですが……やはり迷惑でしたか……?」
「え……?」
「私が一緒では……迷惑でしょうか……?」
「そんなわけ、ぜんぜん迷惑じゃないです!」
「では失礼しますね」
……あれ?
どうしてこうなった……?
「お背中、流しましょうか?」
「あ、ぁ、え、い! いいです!!」
あああ、どうしましょう。目の前にえっち神が降臨してます。
近い、近いです。
ていうか。うっわ。でっか。やっば。すっご。
直で見たのは初めてだけど……封印を解かれた隊長の隊長が超絶ヤバい。ロケット……?
なんかそういう趣味じゃないはずなのに気になって仕方ないんですけど。
思わず自分の胸に手を当ててしまう。なんか悲しい気持ちになってしまった。くっ……。
「はい、いいんですね……では、失礼を」
「え、え、いや、ちょ」
なんでやねんっ!! 断るていうたやろっ!!
なんかあまりの衝撃の展開に脳内が似非関西化してしまったけど、なんで!?
あ! あ、ちょっ! 手つきがっ……え、えっちじゃないですか!?
え、あれ、スポンジ、え、ほんとスポンジですかそれ!? 振り向いて大丈夫なアレですか!?
……あ、スポンジでしたね。なんでもないです。
って、いや、背中! 背中だけですよね!? 前は自分でやりますから!!
ああ……なんか……めっちゃ疲れた……。
脳内で叫びまくってたけど現実ではひたすらキョドってただけな私。悲しいけど私、陰キャなのよね。
しかも隊長は何を血迷ったのか、私で汚したスポンジを手渡してそれで私に身体を洗わせようとしてきたんですけど……それは流石に全力でお断りしました。
いや無理です殺す気ですか。いろんな意味でおかしいですって。
なんだろうこれ……地獄のような楽園……?
もしかしてここってそういうお店だったのかな……? そうかもしれない……?
そして身体も洗い終えたし私は湯船に浸からないのでそのまま退出しようとしたら「いいから浸かれ」(意訳)と穏やかなパワハラを食らったためお風呂に沈められてます。
ああ……これから隊長が浸かるはずのお湯がどんどん汚れてる気がする……やっぱ良くない……良くないよこんなの……。
「では失礼します」
当たり前のように入ってきた隊長。フリーズして全く反応が出来なかった私。
え、いやほんと何が、いったい何が起こっているんですか……!?
「ふふ、流石に二人で入ると少し狭いですかね……?」
「あっ、あっ、あっ」
いやちょ、当たるんですがっ!?
ちょっとでも身体を動かすと隊長の身体に汚れた私の足とかが当たるんですが!?
あ、うぉ、ていうかすごっ、やっぱりそれって浮くんですね……。
「ヨドさん、一つお願いをしてもよろしいでしょうか?」
「え、え、え、あ、はい!?」
「お湯をすくって、私の頭にかけてもらえませんか?」
「え、え? あ、はい」
よくわからないけど、言われるままに両手でお湯をすくってかける。
いや、かけた後で気付いたけど、これ汚水なのでは……?
というかそもそも汚水に浸からせてしまってるのでは……?
本人の希望とはいえ、失礼にもほどがあるのでは……?
「ふ、ふふ……やはり直接は違いますね……これこそまさに……、」
「……?」
なんか声が小さくて聞き取れなかった。バプ……? 入浴剤……?
「……お伝えしておきますが、ヨドさん」
「え、はい」
「あなたの汚染は決して悪いものではないんですよ」
……え? ……急に何を?
「え、いや……ですけど周りを汚してるわけですし……」
「それの何が悪いんですか?」
「え?」
どういうこと……?
「あなたの汚染はあなたの身から出たもの。すなわち、あなたの世界そのもの。あなたは、あなたの世界で、この世界を塗り潰しているだけ」
「……??」
「あなたの世界は、あなたにとって絶対的に正しい。あなたにとって間違ってるのは圧倒的に外の世界の方。あなたの世界が強すぎるから今の世界が耐え切れない。汚染とはこの世界から見た視点での言葉。それだけの話なんです」
「それは……」
流石に……違うのでは……。
私の世界はきっと、間違ってる。そんなの、自分勝手すぎる。
私はこの世界に生きているのだから、いくらなんでもこの世界を汚してしまうことが正しいわけが……。
「私は、私たちはヨドさんの世界を受け入れてます。それが私たちの身を滅ぼすのだとしても、それは私たちが脆弱過ぎただけの話。……覚えておりますか?」
「何を……でしょうか」
「グラウンドゼロ」
「……っ!?」
正直、あまり覚えていない。でも、やったということはおぼろげに覚えている。
「私たちは、ヨドさんの世界を受け止めきれなかった。それは仕方ない、という前提の作戦なのですが……」
「……すみま、せん」
「でも、何故か私たちは生きている」
「……」
そう、そんなわけがないのに。魔獣だけが殲滅された。みんなが無事のまま。
いったい何があったのか。いったいどんなことが起こったのか。
そんな奇跡、本来起こり得るわけがないのに。
「何が起こったのかはわかりません。少なくとも、あの時点の私では……」
「……」
「……ですがあれ以来、私の『浄化』の出力が、上がってます」
「え……?」
「おそらく、戦闘面でも既に第六等級に届いていることでしょう。……今までの私が弱すぎたのもあるのですが」
全然気が付かなかった。
そうだったのか……確かに最近、隊長の調子がいい気はしてたけど、魔法に違いが……?
「だからもう、あなたは我慢する必要ないんです」
「我慢……?」
「私の力はあなたの力を否定するものではなくあなたの力を完成させるもの。その力が大きすぎるなら私が私の力で整えます。不要を削ぎ落して研ぎ澄ますように。より最適で最大の形に。原石を宝石にするように、より美しく、より素晴らしく。私にとっての神の奇跡はヨドさんの存在に他ならない。私にとって他のどんな奇跡よりも優先されるもの、なのですから」
ぼうっと熱に浮かされるように話す隊長と、呆気に取られてしまう私。
「あなたは……あなたの世界は、美しいんです。だから、私はあなたの為にここにいる。私の望みはそれだけなんです」
「あ……」
言葉が出ない。何をどう、言い表せばいいのか、わからない。
でも……私は……いいのだろうか……? 本当に……?
我慢してもらっている、のではなくて……本当の意味で、受け入れてもらえている……?
そんな、私の世界が許されても、いいのだろうか……?
「私たちは、二人で一つ、ですよ。そしてみんなも、あなたの世界の味方です」
「……」
タイミングが違うなと、自分でも思う。
でもなんか感情が……目から零れてしまった。
なんで今? わけがわからないんだけど。
……。私は、普通に生きていいんだろうか……。
これからも隊長のそばにいないといけないのは、変わりないと思う。
だけど、今だって……できる限り全力で力を抑えようと努力してた。それすらも……もう要らない?
私はそれが……つらかったんだろうか。
なんだろう。これがいったいどういうことなのか何もわからないけど。
何かいま、私は、私を縛っていたものから解放された、そんな気がした。
「ですから、これからも宜しくお願いしますね、ヨドさん?」
「……えっと、……よろしく、お願い……します」
私たちは今、本当の意味で二人で一つに、なった。のかもしれない。
……なんか響きがえっちだ。裸同士でこの思考は良くない。
自重しようね私……そういう場面じゃないじゃん……。
でも仕方ないよ隊長えっちなんだもん……。
・・・
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