興味と浪費
目の前には、センセーショナルな見出しを踊らせる雑誌がある。
たびたび魔法関係の特集を取り上げてる、大衆雑誌だ。
魔力に、魔法に、魔法少女に、魔獣に関すること。
その有用性、危険性、活用法、対処法。
この国は法治国家で表現の自由やら報道の自由やらが保障されてるので、こんな結構ギリギリな感じの取材は意外と少なくない。
そして一部のメディアはこうしてイキイキと私たちを娯楽のように弄んだりする……まぁ認識阻害があるのでプライバシーを取り上げられることはないんだけど。
一線を超えたら政治的な介入があるとは思うものの、これくらいなら全然放置されてる。というかいちいち関わってられないというか。
魔法少女がアイドル化されてるようなことも、あったりなかったり。
そこら辺は実際みんな可愛いし仕方ないのかな。ネットなんかではその傾向が顕著だ。
行き過ぎて性的に見られることもあるので、その辺こっち側的には賛否両論だったりする。
承認欲求を満たされて元気な子もいれば、メンタルを病んでしまう子もいる。
ちなみに私も意外と、世間的には美人らしい。でもまぁ色々無頓着なので頭に残念な、が付いてしまうけど。だって化粧とか服選びとか、面倒くさいじゃない……。
というか少し前までここの雑誌もそんな感じの、割とカジュアルな持ち上げ側だったんだけど、編集方針が変わったのかなぁ。
お堅くなったというか、中立か、もしくはやや否定寄りに変わっちゃった気がする。うーん、というか左寄りっていうやつ?
あんまり変に持ち上げられ過ぎてもそれはそれでちょっとなんだけど、こうした変化が一体どういう事情を秘めているのか、気にならなくもない。
隅から隅まで、目を通してみる。書いてあることは他の雑誌と大して変わらないけど……どちらかというと魔獣より魔法少女に関しての記事が多い気がする。
そして自分のことが書かれてないことに、何となくほっとしてしまう。もちろん、自分の部隊のことも確認してるけど……って誰への言い訳なんだろうこれ。
いやはや、我ながら趣味が悪いというかなんというか、うーん、そもそもこれは趣味というべきなのか……。
まぁどうでもいいといえばどうでもいいんだけど、さ。
……あ、そんなことはともかく。
そろそろ今日の配信が始まるなぁ……待機しなきゃ。
興味の消え失せた雑誌を放り捨て、つけっぱなしのパソコンの接続をプライベートに切り替える。
一応これも、仕事といえば仕事と言い張れなくもないのだけど、やっぱりちょっぴり後ろめたいので……。
配信とはつまり、広報専門の部隊による配信動画なのだけど、『計算』ちゃんと『識別』ちゃんが担当になってからこう、だいぶ見やすくなった。
基本的にはアッパーな『計算』ちゃんとダウナーな『識別』ちゃんが愉快に掛け合いながら、一般公開してもいい情報をわかりやすく教えてくれるって感じの内容。
真面目な話ばかりじゃなく、たまに全然関係ない雑談を延々と話してることもある。公式配信なのにゲームしてるときとかあるし。
組織的に、いいのかそれでって感じだけど、お咎めなしにやれてるってことはアリなんだろうかなぁ。
そんな感じで正直、オタクに媚びてるとか言われてるものの、一般人の興味を引くという意味では大成功してるといえるんじゃないか。私も珍しくまだ飽きてないし。
さてさて、ブックマークから配信窓を、
「──何してんのアンタ」
身体が硬直する。今この瞬間、一番聞きたくない声が聞こえた。
ここは……部隊の隊長室。許可なく入れない私の城のはずなのに、籠城は叶わないみたい。
彼女は副隊長の『誘惑』さん。
その魔法名の割に、地味な見た目をした編み髪でメガネの少女。でも怖い。
まるでザ・委員長ってな感じの装いなのに、吊り目で言葉がキツくて、とても怖い。
そして何故か私に対して非常に当たりがキツイのでなおさら怖い。なんでなの……。
「またサボってるの」
「あ、いや……えっと……サボっては、ないかなーと……?」
「書類の決裁、溜めてるでしょ。事務員が待ってるから早くして」
「え、はい……すみません……」
有無を言わさない叱責。何故か部下に怒られてる上司の図。
おかしい……おかしくない……?
別にこの辺の書類、まだ期限には少し余裕があるのに。
もうちょい後でもいいかなーって思ってたんだけど……ダメ?
「はぁ……優先度の低いやつ、代理決裁でやるから頂戴」
「ごめんなさい……えぇと、あっちの営繕関係とか?」
「それは予算規模的に優先度……ああいや、私がやるわ。貰ってく」
あの、いや、この部隊で一番偉いのって私のはずでは……?
なんかやだなぁ……他の部隊もこんなにギスギスしてんのかなぁ……。
でも言い訳するとまたボロクソに言われるので素直に受け入れる。
とりあえず謝っておけば嵐は過ぎ去るのだ。冷たい目をされるのと引き換えに。
「アンタってホント……とにかく、キャパ超える前には言いなさい」
「……はい」
「いい返事ばかりね。わかってるの?」
「ぅ、はい……」
怖い……前にうっかり期限をすっとばしてしまってからやたらと絡まれるようになってしまったんだよなぁ……。
過去の私のバカ……忘れずちゃんとやっとけよバカ……今の私はちゃんとやってるぞ……!
……たぶん!
「……」
「……」
えっと……あの……まだ何か……?
「ジャージで仕事すんの、やめなさいよ」
「……え、あ、でも楽だし?」
「……」
「……」
「……」
「すみません……」
「もういいわ。また来るから」
「なんかすみません……」
服装に関しては誰にも迷惑かけてないし昔の広報動画にも同じ感じで出てたんだから、別にいいじゃん……!
と開き直りたかったけどそんな度胸なかったです。はい。
あとまた来るんですね。できれば少し放置して欲しいです。ダメですか。ダメなんですね。
仕方ないので書類を片付け始める。内容に目を通して、問題なさそうなので決裁印を押していく。
大体は他の人の目を通ってるのでほとんど問題ないものしかない。これをるーちん的に繰り返す。
ポン、ぱらっ、ポン、ぱらっ、と。
いつも思うけどこれ、ほんとに私がやらなきゃいけない仕事なのかなぁ……。
でも……魔獣と戦うのよりはマシなのかなぁ……魔獣怖いし……。
私の『反射』を貫けるような存在には会ったことないけど、怖いものは怖いんだ。
だからこうして、平和に書類仕事ができることに、感謝しないと。
そうそう、感謝感謝だよ。
……。
気のせい……、かな。何となく、彼女の様子が変な気がした。
いつもはすぐどうでも良くなることだけど……今回はなんか気になったまま。
……別にいいか。
別にいつも通り、別に、いい……の、かなぁ……。
ぅあー、なんか気持ち悪いっ……!
これ片付けたら後で彼女のこと、覗きに行こうかな。たまには隊長っぽいこともしないと。
まぁ結局なんでもなくて冷たい目でうざがられるんだろうけど……いや怖いな……想像だけで震えそ……。
それにこれ終わったあとは配信見るつもりだったし……あ、いや、別に配信見ながらでもこの作業はできるのでは?
……。
いや、流石にダメか。ちゃんと仕事片付けよ。面倒くさ……。
・・・
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